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今日は元旦。
だけど私にとってはそれ以上に大事な1日なの。
なぜなら大好きな彼と迎える初めてのお正月だから―…

待ち合わせの鎌倉駅に着き、人混みの中に蒼髪・長身の彼を見付けて、は着物を着ているのにも構わず小走りで駆け寄った。
アップにした髪に挿している簪に付いた小さな鈴がチリンと揺れる。



「将臣君お待たせ」

「おっようやく来たな…って」

将臣は一瞬驚いた顔をするが、赤地に扇子の柄が入った着物を着たを上から下までじっくり眺めた。
は将臣の口から出る次の言葉にドキドキしながら 似合う?と、おどけてみせる。

「へぇ…馬子にも」

「衣装…って言いたいんでしょ?」

はそう言うと、プイッと横を向いてしまった。

「なに自分で言って膨れてんだよ」

「べっつに〜」

「可愛いよ」とか褒めてくれる言葉を少しだけ期待していたから、なんて言ってやらない。
将臣はすねるにやれやれと苦笑いを浮かべると、彼女の耳元に顔を近付けた。

「…照れ臭いから一回きりだからな?」

そして声のトーンを落として囁くように言うのだ。


…すげぇ綺麗だ」

「…ばかっ」

欲しかった言葉を貰えてみるみる間に熱を持つ両頬。
惚れた弱味以上に、不意にこういう事をされては…全く彼には敵わない。





鎌倉駅から若宮大路に出ると、鶴岡八幡宮の参道は見渡す限り初詣をする人達で埋めつくされていた。

「はー…毎年の事ながら…すごい人混みだね」

着物着崩れしないかなぁ…一人ぼやいているに将臣は当たり前のように左手を差し出す。

ほら、手」

「うん」

がその手をとると、将臣は離れないようお互いの指と指を絡める。

「よしっ気合いを入れて行くか」


参拝しようとする人の波に押しつ流されようとしながらも、二人は表参道を抜けて長い石段を登りなんとか本殿へとにたどり着いた。
本殿に入り、参拝するのも順番待ち。それでも一年の安泰を願って人々は神に祈りを捧げるのだ。

(今年も仲良しでいられますように…)


薄目を開けて横をチラリ見ると、が神に祈った相手は瞳を閉じ手を合わしてお祈りをしている。

(将臣君も私と同じように思ってくれたらいいのにな…)

恥ずかしくてブンブン首を振ると、将臣にあははっと笑われてしまった。






参拝をすませて石段を降りようとしたその時、どんっ と背中に衝撃が当たる。
人を押し退け通ろうとした若者に押されて…

(うそ…落ちる―…!!)


「きゃっ」


グキッ


っ」

将臣が抱き止めてくれたため石段から転倒こそしなかったが、この足首に走る鈍い痛み…
どうやらよろけた際に足首を捻ってしまったようだ。
抱えられるように石段を降り、境内の隅に移動して石の上に座らせてもらう。

「い、いた…」

将臣はの捻った足首を見るや顔を曇らせた。

「大分腫れてるな…」

捻った足首はじんじんと熱を持ち、少し足に力を入れるだけで鈍い痛みを放つ。
これでは歩けそうにもない…










* * * *









「ごめんね…」

将臣に背負われたは申し訳無さそうに謝る。

「まぁ気にすんな」

明るく将臣は言うが…の気分は落ち込むばかり。
の目に悲しくて、悔しくて、申し訳無くてうっすら涙が浮かぶ。

「着物、着てこなきゃよかったなぁ…」

「そんな事言うなよ。お前の着物姿を見られて良かったぜ?それに…」

将臣はの方を首を捻ってだけ向くと、、

「役得ってやつだな」

そう言ってニヤリと笑う。
そういえば…着物からはだけた太股は常に将臣の腰辺りに密着しているし、歩く度に胸の膨らみが背中に当たっていた。
はその事に気が付き、頬を朱に染める。


「も〜!えっち」


ポカリッ


「って」

が軽く頭をこづくと将臣は大袈裟に痛がるが、横を向いて知らんプリをしてやった。

(―なんて膨れてみたけれど、落ち込んでいる私に気遣ってくれているんだよね。
 はたから見たら恥ずかしい今のこの状況も私にはとても嬉しくて…)


ああ…真剣な顔も、優しい微笑みも、豪快に笑う姿も…貴方の全部が愛しい。




「将臣君…大好きだよ」


広い背中に顔を埋めてはそっと呟く。
を抱える将臣の腕に力が篭るのを感じながら―…




(おしまい)

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