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2.a state of emergency.(4)

神羅ビルの図書館で、がアルバイトを始めてから早いもので2週間が過ぎようとしていた。





「ちょっといいか、と」

「はい?」

返却された本を運んでいたは後ろから声をかけられて足を止める。
返事をして振り向くと、声をかけてきたのはスーツを着崩した燃えるような赤い髪が印象的な男性。
神羅の社員にしては服装を崩しているし、しかし目つきが鋭すぎて一般人には見えない。
男性から仄かに香るのはオーデコロンと煙草の香り。


「two-pieceのシリーズはどこに置いてあるのか教えてほしいぞ、と」

図書館の数カ所に設置されている検索機で探せばいいのに何だろう、とは内心首を傾げる。
年配の方に尋ねられることはあってもだいたいの利用者は検索機を利用するから。男性が若い女性社員にナンパ目的で声をかける事もあると聞いていたから、この場合は後者かもしれない。
しかし、司書達から「神羅の社員には嫌な顔せずにていねいに答えるように」言われいる。


「ああそのシリーズはですね…」

戸惑いを隠しながら、はこの数日間で身に付けた営業用の笑顔を浮かべた。


「この角を曲がった先にある、分類番D218の棚に置いてありますよ。よろしければご案内します」

「頼むぞ、と」

男性を案内するため先に歩くは、時折背中に鋭い視線を感じていた。
ミッドガルに来てからの記憶を探っても彼とは初対面だというのに、この探るような視線を送られるのは何故なんだろう。






「こちらです」

目当ての分類棚まで案内して、にこっと微笑めば男性は表情を緩める。

「ふーん、なかなかだぞ、と」

「え?」

「いいや、頑張ってな、と」

肩をポンと軽くたたく青年に軽く頭を下げてから、はその場を後にした。




(かっこいいけど何か変わった人だなぁ。しゃべり方も個性的だし見た目も派手だし、探してた本って漫画だから不良社員が図書館にサボリに来たのかな?)

不良は苦手だけど、さっきの男性は苦手な感じは無く親しみやすい感じだったから、仕事中にサボった事を上司にバレて怒られなければいいけど。
ふと、そんな心配をしてしまった。
















* * *


「レノ、報告書をほったらかしにしてどこに行っていた?」

ふらりとどこかに出掛けてから1時間ぶりに部署へ戻って来た赤い髪の青年に、黒スーツをピッシリ長い黒髪を後ろで一つに結んだ青年は一睨みするとデスクに山積みとなった書類を指差した。

「ツォンさん、仕事の能率を上げるためにちょっとした息抜きをして来ただけです、と」

明らかに嘘くさい、レノの軽い返事は何時もの事。


「お前の事だから例の娘に接触したんだろ。…それで、感想は?」

「副社長のお気に入りの娘は普通の女の子だったぞ、と」

色素の薄い大きな瞳がくるくる動いてまるで小動物みたいだった。
声をかけた瞬間は驚いていたみたいだが、その後は別に変わった様子もないしレノの印象は、普通の少女。

「背もちっさいし細っこくて弱そうだし、とてもテロリスト集団と戦えるようには見えなかった、と。それと司書の話だと、時々副社長が様子を見に来るそうです、と」

「やはり副社長が故意に隠している、か」

若者が自由に恋愛しても構わないと思うが、大企業の社長息子となると一般人とは話は別だ。
どこの馬の骨か分からない娘を息子が気に入っている、となれば娘の身辺を調べるのは親として当然である。
ただ社長が心配しているのは、少女の存在が息子にとってではなく神羅に、会社にとってマイナスにならないかだけだろうが。


「情報無しか…だが、社長を失望させる訳にはいかないからな。ミリア、何か分かったか?」

ツォンは自分の斜め後ろのデスクでパソコンのキーボードを叩いている、黒スーツに身を包んだ栗色の髪の女性に声をかけた。

「すいません、色々手を尽くして調べているのですが…彼女のデータは無しです。もちろんミッドガル市民では無いし、指紋照合もデータ無しで数日間尾行して様子を追ってみても怪しい動きは無し。お手上げですね」


各地で活動している反神羅組織や、遠くウータイでは武力衝突まで発展しそうな程の緊張状態となり、焦臭い話題が尽きない。
山積みになった仕事を片付けるためにも、正直な話これ以上、娘の身辺調査に時間を割いてはいられない。



「仕方ない、本人から聞くか」

「尋問は少し気が引けるな、と」

意外なレノの反応にツォンは彼を振り返る。

「あの子はなかなか可愛いかったから、と」

「…仕事だぞ」


呟いた言葉はレノに対してか自分に対してか、ツォンは深い溜め息を吐いた。

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