2.a state of emergency.(3)
「臨時職員として配属されましたです。よろしくお願いします」
頭を下げて挨拶をしたはパチパチパチと数名の神羅社員から控え目な拍手で迎えられた。
ルーファウスから紹介された仕事の中からが選んだのは、神羅カンパニー本社内の図書館だった。
「広い…」
ガーデンの図書館と同じくらいの広さの図書館を見渡して、つい驚きの声が漏れる。
神羅カンパニー本社はミッドガルの市役所を兼ねるているとは聞いたが、これが一流企業の管理する図書館…
コネを使っての臨時採用とはいえ、神羅カンパニー本社での仕事と聞いて戸惑っただったが、ルーファウスが神羅カンパニー社長の息子だと知って二度驚く事になった。
この図書館は、所属されている膨大な書物の数に対して管理する人員が足りていないため、臨時にアルバイトの採用を考えていたらしい。
一流企業の管理する書物の中には貴重な物も少なく無い。
書物の管理は図書館司書の資格を持った社員が行い、に任されたのは本の整理やら荷物運び。
古本屋だったら高値で取引されているような書物を扱って、神経をすり減らすよりは簡単で単調な仕事。
記憶力はある方だったから、多くの本棚の配置と分類はすぐに覚えることが出来た。
「さんこれも棚に戻してね」
「はいっわかりました」
単調な仕事は体が訛りそうだ、と思っていたら、同年代の女の子より力持ち(それなりに鍛えていたから)だと思われたようで、男性社員が運んだ方がいいのでは?と思ってしまう量の荷物を運んだりと、下手な筋トレより筋肉が鍛えられそうだった。
「疲れたー…」
アルバイトはガーデンが休みの時にやった事はあっても会社に勤務するなど初めてで、慣れない環境で気を遣いまくってクタクタに疲れて帰って来たのは本社ビルから徒歩20分の神羅カンパニー社員寮。
一人暮らしには十分な広さの1LDKの部屋には「生活一通り揃えてあるから」とルーファウスが言ってくれたように、最低限必要な家具家電が揃えられていた。
カーディガンを脱ぎ捨てると、倒れ込むようにシングルベットに横になる。
衣食住と仕事まであてがってもらって、いくら社長息子のルーファウスを助けた恩人と言ってもここまでしてもらうと、彼に対してすごく申し訳無い気がする。
何度かの様子を見に図書館に来てくれたから、の事を社員達は「副社長の恋人」と影で言っていると、副館長のおば様に言われたっけ。
ただ、は仕事内容と自分の置かれている環境に慣れる事に必死で気にしている余裕は無かったが。
とりあえず分かったのは、やはりこの世界は自分の今まで存在していた世界ではないという事。そしてこのミッドガルという都市の事、神羅という企業の事、そして仕事は社会に出てからの人間関係は大変だという事。
***
「よっと…」
副館長から運ぶように頼まれたのは、著者が神羅に勤めている科学者が書いた辞書並に分厚い研究論文集。
タイトルは“魔胱工学と人体への可能性”という何とも意味が理解出来ないもので、内容もには理解出来ない論文だった。
全く面白そうじゃない本だったため、本棚の届かない場所に置くつもりで両手に本を三冊持ち、は脚立に足をかけた。
あと少しで本棚に本を置けるというとき、バランスを崩して体が傾く。
「うわっ!?」
「…危ないっ!」
ガタンッ!静かな図書館に大きな音が響く。
目を瞑っただったが衝撃はやらぬ男性に抱き寄せられている、という状況を理解した途端、一気に体中が熱を持つ。
「ぁ、ありがとうございます」
立ち上がろうと手足をばたつかせると、青年は片手でを引っ張り立たせる。
恥ずかしさから焦って散らばった本を片付けるため手を伸ばすと、青年も分厚い本を両手に持つ。
「これは、ここでいいのか?」
脚立と本が倒れた大きな音に集まった社員に事情を伝えていると、は脚立に乗らなければ届かない本棚に青年は少し背伸びしながら次々と本を置いていく。
「えっそんな、いいですよ。私こう見えて意外と力持ちなんで大丈夫です」
「いいっていいって、女の子が持つような量じゃないし、危ないから手伝うよ」
ニカッと歯を見せて笑う青年につられても笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
「どう致しましてっと。アンタここに新しく入った子だろ?仕事頑張ってな」
あっという間に本棚に本を並べ終わった青年は、の頭を撫でると図書館を後にした。
「そういえば、あの人の名前聞くの忘れた」
彼の姿が図書館から消えた後、仕事をしながらは少しだけ後悔していた。
まぁいいや、いつかまた会えたら名前を聞いてみようと思う。
久しぶりに気を抜いて他人と話せて、少しだけ元気になれた気がした。