04 // 弱い私なら愛してくれた?
自分が二十代の年代に入り多少落ち着いてきたからなのか…この頃、十代のコって怖いもの知らずだと思う。「先輩って美人ですよね。モテるんだろうな〜」
最近タークスに最年少で入ったシスネの突然の質問に、は飲んでいたカクテルを吐き出しそうになった。
「先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫か?ほら」
「ありがと…」
厳つい身体にスーツとスキンヘッド、というだけでも他人に威圧感を与えるのに、室内でもサングラスをかけたままのルードからはお絞りを受け取る。
今日はタークスとしての初仕事を無事終えたシスネを気遣い、打ち上げの名目で同僚のレノとルードとシスネを居酒屋へ飲みに誘ったのだが…
「はぁ、シスネお前何言ってるんだよ。は確かに見た目は綺麗な顔立ちかもしれないけど、気が強すぎるのと女として全然可愛らしさが無いのがマイナス要素になって、全然男からモテてはいないぞ、と」
失礼な事を言われたがその通りだから仕方がない。レノの憎まれ口は毎度の事と、何時もなら軽く流すはずなのに、酒が入っているせいかこの時ばかりは腹が立った。
「どぅわっ!?」
「…悪かったね」
反論する前に身体が動いて、隣に座っているレノの首筋に手刀を叩き込んでいた。
不意打ちの一撃にたまらずレノはテーブルに突っ伏す。
「一撃必殺!さっすが先輩!」
「おい、やりすぎだぞ」
手を叩いて無邪気に笑うシスネの頬は酒がまわっているようでピンク色に染まり、ルードは溜め息混じりに意識を飛ばしたレノを壁にもたれかけさせた。
「フンッ自業自得よ」
少しばかり胃がムカムカするのを無視して、はグラスに残ったカクテルを一気に口の中に流し込んだ。
* * *
翌日、食堂で楽しそうに話すシスネとザックスを見かけたがザックスが楽しそうに笑っている姿がやけにはっきり見えて、何故か声をかける気が起きなかった。
簡単な食事を済ませて部署に戻った時、丁度皆出払ったようで残っていたのは一人だけ。
だからこの男に声をかけたのは選択肢が無かったからなのだ。
「あのさ、ツォン」
普段は自分から声をかけないのどこか遠慮がちな声色に、書類に目を通していたツォンは顔を上げた。
「男ってさ…可愛らしい子が好みなのかな?」
「は?」
言ってからはしまったと口元を押さえた。
突然こんな質問をしても意味不明だし質問する相手も悪い。
「いや、何でもないや。仕事の邪魔してゴメン」
足早にツォンに背を向けて自分のデスクに戻ろうとするに、ツォンは「そうだな」と呟くと手にした書類をデスクに置く。
「俺は着飾った女より、強い信念を持って仕事に臨んでいるお前の方がよほど魅力的な女に見えるがな」
「はっ…」
思いがけない言葉に振り向いたの眼がこれでもかというくらい丸くなる。
レノや遊び慣れている男ならわかるが、あの堅物のツォンがこんな台詞を吐くなんて…仕事のし過ぎで頭がおかしくなったのか?少しだけ心配になってきた。
それともこちらの問いを冗談だと思って返答したのか。
「…強い女って嫌われるものよ」
神羅カンパニーに入社してタークスに配属されてからというもの、難しい任務を遂行する度に他の社員や同じタークスからも陰口を囁かれているのも事実なのだ。
目の前の男はそんなやつらとは違うだろうけど。
「そんな男ばかりではないさ」
「ツォンらしくない…冗談も程ほどにしてよね」
それっきり会話を続ける気が失せてしまい、はコーヒーを煎れようと給湯室へ向かった。
だから気付かなかった。
「冗談、か。俺はそんなつもりは無いのだがな」
珍しくツォンが苦笑いを浮かべていたことに。
弱い私なら愛してくれた?
(可愛げのない女、というのが周囲の評価。でも別にそれでいいと思っていた)
* * *
一度心に鎧を着てしまったら、なかなか甘えられないもの。
別に主任のことは嫌いでは無い、はず。