13

その日の夜は戦いで消耗しきっていたのもあり、ラインハット城に泊めてもらうこととなった。


は城の客室のベランダ壁に背を預けて、静まり返った城下町を眺めていた。
この国は十年間で多くの物を失った。
でも、虐げられる人の痛みを知るヘンリーならきっと良い国に変えていくだろう。



ふいに、隣のベランダから人の気配がして、振り向く前に声をかけられた。
…何で彼はタイミングがいいんだ、と苦笑いを浮かべながら隣のベランダに近寄る。


「また眠れないのリュカ?」

「…何だか寝付けなくてさ。今日1日のうちにいろいろあったからかな」

夜風に前髪をなびかせて彼は少し寂しそうに笑う。

「そうだね…明日からは、寂しくなるね」

ヘンリーはリュカと十年間苦楽を共にしたかけがえのない親友だ。
一年半しか一緒にいない自分がこれだけ寂しく思うのに、彼が寂しくないはずはなくいろいろ思うところがあるだろう。
それに…ようやくリュカとヘンリーはスタートラインに立てたのだから。


「ねえリュカ…私ね、始めて人が、自分が、怖いって思ったの」

リュカの視線を感じながらはポツリポツリと話し出す。
心なしか自分の声が震えているのに気付きながら。



「自分の私利私欲のために動いて、リュカとヘンリーの十年間を奪って、二人はこんなにも苦しんだのに…ごめんなさいだけだなんてあんまりだなって。例え地下牢で反省したとはいえ、あの女の人をボコボコにしてやりたくなった」

あの皇后が憎たらしいと思う反面、二人の十年間に比べたら自分は何てぬくぬくと平和に暮らしていたんだろう。
あの過酷な奴隷生活を十年も…
日本で暮らしていた頃、学校に通って受験勉強をしていた日常の中にはモンスターなんかもちろん存在しないし、人間同士の戦いなんて遠い過去の歴史にしか無かった。


「それに私は、今まで、リュカやヘンリーに比べたら…今まで凄く平和なところに住んでたんだって思った」

「もしかしてはお姫様だったの?」

「ううん。お姫様どころか普通の一般人だったよ」

今にも、泣き出しそうになっていた表情を崩して笑みを見せるにリュカは微笑むと、手を伸ばしてベランダの手すりに置かれたの片手に触れる。
すっかり冷えてしまっていたの手にリュカの温もりが流れ込んでいく。


彼は真剣な顔で改めてに聞いた。

「この先、俺は親父の意志を継いで勇者と天空の武具を探すつもりだ。母さんを助けるために魔界や魔族と関わることもありうる。そうなると、俺と一緒の旅は危険だよ。今以上にもっと怖いこともあるかもしれない…それでも、は一緒に来てくれる?」

「うん」

即答するにリュカは苦笑いした。
は彼に視線を向けてまっすぐ見る。

「世界の危機っていうのはいまいち実感はないけど、でもリュカと一緒にあちこち行けばもと事居た場所に戻れるかもしれない。
…それにね、リュカと一緒にこの世界を見てみたいもの」

言い終わった後、何だかとんでもない事を言ってしまった気がして慌ててベランダから離れようとするが、の手をリュカは放そうとはしない。


「ありがとう」


恥ずかしくて赤面するの様子に、嬉しそうに笑うリュカの顔もほんのりと赤く染まっていた。







…To be continued.