拾いもの?

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夢を見た。


夢の中なのに、これは夢だと理解出来たのはあまりにも非現実的な光景だったから。

火薬と何かが焦げる臭いが立ち込める戦場、此処にはあちらこちらで人が地に伏し、次々に火の手が上がる。
そんな“死”が満ちた場所に一人の女の子が居た。
軍服のような服を着た異様な雰囲気を纏った男の人を腕に抱えて女の子は地面に座り、泣いていた。
腕に抱えた男の人に対するものなのか、戦に対するものなのか、悲痛な悲しみに満ちた彼女の姿は…見ていて切なくなる程。
そして何より異様に感じたのは、血にまみれた彼女の額。

彼女の額には……角が見えた。

そして彼女の側に佇むもう一人の人物は、背を向けているため顔は判別できない。
背格好から男性だろうが、彼の髪は真白だった。










ってば」

肩を揺すられて、ゆっくりとの意識が浮上していく。


「う〜ん?」

朦朧としつつも机に突っ伏していた顔を上げると、視界に入ったのは友人の顔と眠たそうに講義をしている年配の男性教授。
大学の大講義室で講義を受けていていつの間にか居眠りしていた事に気付いて、ずれ落ちそうになっていた眼鏡を慌ててかけ直した。


「珍しいね、が寝るなんてさー確かにつまらない講義だったけど」

「あはは、だから眠たくなったのかもね」


欠伸を噛み殺しながら、講義室のホワイトボードに板書する教授を見る。
講話中心の眠たくなる授業をするくせに、彼は居眠りしている生徒をチェックして成績を下げるという手段をとるから、チェックされていないか冷や冷やものだ。


(しっかし、変な夢見たな…)

ただの夢、だと思いたいが残念ながら今までの経験上こういう夢を見る時は必ず何かが起こる。
眼鏡が外れかけていたために見た夢なのか、思い返してみてもいまいち意味が分からなかった。
ただ、漠然とした不安と「これから何かが起こる」という予感はの中にはあった。













* * * *













夕方からのアルバイトを終えて、眠気と疲れでふらつく身体で居候させてもらっている叔母が所有するマンションに帰って来たは、エレベーターの扉が開いた途端に飛び込んできた光景に、危うく出かかった悲鳴を喉の奥に引っ込めた。



「だ、誰…?」

もたれ掛かるように何者かが部屋の扉を塞いでいたのだ。
不審者の可能性も考えたが、セキュリティがしっかりしているこのマンションは入り口には監視カメラが設置されていて警備会社が常に監視しているし、入口の扉は住人の許可か指紋認証されないと開かない。
ここまで入って来れたということこの男性は、マンションの住人かその友人。
24時にはまだまわっていないが、もう遅い時間だから酔っ払って寝てしまったのかもしれない、しかしこれでは室内に入れないではないか。

「あのーすいません」

恐る恐る男性に近づいて声をかけてみるが、彼はピクリとも動かない。
反応のない様子には一気に血の気が引いた。

「し、死体!?」

叫びそうになった時、男性の胸が僅かに上下しているのを確認して、ホッと胸をなで下ろす。
そこで初めて男性の容姿に目が行った。
都会のマンションだから殆どの住人は知らないけれど、彼はとても目立つ容姿をしていた。
年齢は若い、だろうと思う。
サラサラな淡い金髪にすっと通った鼻筋。とても整った綺麗な顔立ち。服装も江戸時代の着流し風の着物を着ていて。
何かのゲームのコスプレ?それとも、個性派なのか?もしかしたら歌舞伎役者?とか役者さんだろうか?
今は閉じられている瞼が開けば、とても綺麗な男性なのだろう。
じっと彼を見ていて…湧き上がってくる妙な違和感からの背中がゾクリと冷えた。


この男性とは関わらない方がいいに決まっている。危険だ、本能もそう告げている。

でも…


「放っておくわけにはいかない、かなぁ…」

季節は秋とはいえ夜はかなり冷え込む。このまま置いていたら男性が目覚める前に凍死する危険もあるだろう。
さすがに家の前に死体があるのはマズイ。

うずくまったまま暫く悩んだ末、は肩に巻いていたストールを男性に掛けると、バックから携帯電話を取り出した。


「戸崎さん、お仕事中にすいません…」

こんな時間に電話するのは申し訳ないが、幼い頃から自分の面倒をみてくれている彼だったら大丈夫だろう。






拾い猫ならぬ拾い者(もの)をしました。



「戸崎さん、忙しい時に来てもらってすいません」
「いえいえ、かまいませんよ。今朝、月子さんからさんから連絡がきたら力を貸すように言われていますから」
「えっ月子ママが?先視していたんだ…」




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