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序章






この世は万華鏡なの。角度を変えた「此処ではない世界」が多数存在するのよ―

今、自分が居る世界はそのうちの何処になるのか幾人の「私」がこの世で足掻いて生きているのか―・・・

誰か愚かな私に教えてください。








日本のどっかの都会にある会員制高級クラブ【TUKIKO】
シックで高級な内装で整えられている落ち着いた店内には、流れる音楽は流行りの歌では無くクラッシク。
ちょっとやそっとの身分では入り口で追い返されてしまい、足を踏み入れることもできないだろう。ただ、今はまだ開店前だったが。

高級な店内には不釣合いな、グレーのパンツスーツ姿でカクテルを煽るメガネの若い女、彼女がこのお話のヒロインである。
彼女の着ているブラウスの襟元は乱れスーツには皺が寄ってしまい、クリーニングに出さなければ皺は取れないだろう

「あ〜〜もうやってらんない!!」

大声で叫ぶと、彼女はだんっ!と手にしていた葉書をテーブルに叩きつけた。


「・・・だからあの男はダメっていったじゃないの」

足音をたてず近寄ってきた着物姿の色白美人が、グラス片手に髪をがしがしと掻き毟る彼女の横にイスに座る。 
背筋を伸ばし凛とした立ち姿、大人の落ち着いた雰囲気に相反するようなクラクラする女の艶やかさ・・・
並みの男は彼女と話すどころか直視することすらできないだろう。



「月子ママ・・・」

色っぽい和装美人こと月子ママはこの女性、の育ての母親である。
あまり似ていないがの母親の妹である月子は、12歳の時に事故で両親を亡くしたをひきとり育ててくれた人。教師になりたという夢も後押ししてくれた。
超がつくほどの美人で教養もあり、実は先見の力があるため裏で占いもしていて有名政治家や大企業の社長も月子ママのファンらしい。
の母方の家系はなんでもご先祖様が巫女様だったとか・・残念ながらにはそんな能力は無かったが。もしも降りかかる災いを予知する力があったら人生苦労はしない。

そう、こんな・・・


「ママぁ〜これ見てよ〜」

先ほどまで険しい顔で見ていた葉書には・・・幸せそうに笑う男女が印刷され、『私達結婚します。絶対来てね』と記載されていた。ようするに『結婚式の招待状』だった。
結ばれる二人は大学からの友人。
新婦となる彼女は親友と呼べる程親しかった・・・新郎は・・・
ほんの少し前までの彼氏だった・・・



3日前、私は大失恋をしました。

彼とは大学3年生から付き合いだし、教師を目指すための勉強・教育実習や試験など、お互い励ましあい乗り越えてきた。
今まで男運が悪いと思っていたけれど、その中で一番の痛手かもしれない。
彼とは大学3年生から付き合いだし、教師を目指すための勉強・教育実習や試験など、お互い励ましあい乗り越えてきた。
彼が居たから私は教師になれたといってもいいくらい、支えて貰っていた。

それなのに―・・・


「ヒドイよ・・・」





『・・・えっ・・・?』

なに、言っているの?

二股…!?  しかも妊娠!?

相手は・・・・・私の親友・・・・・



3日前に別れを切り出した彼の発言は、に爆弾並の衝撃とダメージを与えた。
理解できずに呆然としていると、彼は悪びれもせずに別れてくれと言う。


「 おまえなら俺が居なくても大丈夫だろ。でも、アイツや子どもには俺が居なくちゃダメなんだよ。お前も今変にもめたらまずいだろ?これもお互いのためじゃないか?」


お前が忙しくなって寂しかったからアイツに惹かれたんだ、とも言いやがった。
まるで、悪いのはお前だ俺は悪くない、という意味を含んでいるようだった。



ふざけんな

思いっきり言いたいこと言って、アイツをぶん殴ってわめき散らして親友とも喧嘩してやりたかったな。でも変なプライドと本気で感情をぶつける勇気が無くて、引き下がってしまった。

もう男なんて、嫌。こんなに傷付くのなら恋愛はこりごり・・・

じわっ と滲んでくる涙をこらえるように、半分やけくそでカクテルを煽る。
そんなを見て月子ママは苦笑いを浮かべていたが、急に真顔になり

「 ・・・あんたはこれから失恋以上に大変な目に遭うかもしれない。でもあんたに真実を視る強い力と真実を告げる力がある。それは言霊と呼べるほどの、ね。気が付いていないと思うけれど。いい?どんなにつらいことがあっても自分の直感を信じなさい。」


守ってあげれなくてごめんね・・・小さな声で告げる月子ママに は首を傾げる。

「月子ママ?大変な目って、年末までの仕事のこと?逆に大変な方が余計なことを考えなくていいよ〜」


からからと笑うをママはなぜか切なそうに見ていた。
このときの私には、月子ママは仕事のことを言っているのかと思っていたけど、ママはわかっていたんだね。

この後、降りかかる運命を・・・











* * * * 



「あ〜むしゃくしゃする。飲みたりない!!」


お店が開店する前に自宅マンションに戻ってきたは、とりあえず着替えて化粧を落としてリビングに置いてある2人掛けソファにダイブした。
このまま酒を飲みまくって酔いつぶれるのもいいが、


「この傷ついたハートを八葉に癒してもらおう!」


失恋でこれ以上腐ってられない!!
と、気分転換に大好きな[遙かなる時空の中で3十六夜]をプレイすることにした。
恋愛シュミレーションゲームなんて楽しいのか!?と思っていたけれど、友人に薦められやってみたらハマりにハマってしまった(苦笑)
でも仕事の忙しさから、まだ大円団EDと銀EDは見ていない。…そういえば知盛EDもあるらしいケド、未だに攻略は出来ていない。
ビール片手にプレステの電源をプチッと入れる。


「て、あり?」

再度プチっと・・・

「電源入らない〜なにこれ?」


プチプチポチポチッ


何度もスイッチを入れなおして、プレステ2本体をバンバン叩いたり蹴ったり振ってみたけど一向に起動しない。

(こっ壊れた!?思い通りにならない・・・ゲーム機まで私を裏切るの!?)


なんだかもう本気で泣けてきてぼろぼろと涙が溢れてくる。そしてめちゃくちゃ腹がたってきた。

「どいつもこいつも使えないなら、もう捨ててやる〜!!」


何度も言うが、この時は相当酔っ払っていた。酔っ払いはありえない行動をとりやすい。
も素面だったなら絶対そんなことはしない(多分)行動をとっていた。


ガラガラガラ・・・・


ベランダの窓を開けると

「アディオ〜ス」


ポーーイ


勢いよくプレステ2を放り投げた。



・・・ぐらり・・・



その時、急に目眩がして次の瞬間の身体が揺らいだ。


「え・・・・」


気が付くと は、プレステ2と一緒に
ベランダから真っ逆さまに落ちていた・・・



ここは高層マンションの8階。落ちたら助からない。冷たい風が全身を包み、一気に酔いが覚めていく。
落ちていく の脳裏に今までの楽しかったこと、嫌だったことが走馬灯のようにうかんできた。


(ああ・・・私は死ぬのかな?)


明日の新聞の見出しは

《新米教師 転落死!!仕事のストレスから自殺か!?》だな。

意外に冷静に分析している自分を嘲る。
痛い失恋して、仕事も何もかも中途半端なまま??もう少し人生を楽しみたかった。
・・・でも、死んだらお父さんとお母さんに会えるのかな?

・・・ごめんね…月子ママ・・・



沈んでゆく意識の中、どこか遠くから


チリン

という鈴の音が聞こえた気がした・・・・






ありきたりなトリップです。
前サイトから手直しして再度UPしました。
多少は読みやすくなっていると思いますが…

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