暖かな春の陽射しが、この世界を優しく包む。
今年も川沿いの公園に咲く桜は、可憐な薄ピンク色の花を咲かせ見る者を魅了している―…
でもこの綺麗な桜はあと数日で散ってしまうのだろうか。
そう思うとは悲しい気持ちになる。
けれど・・・大丈夫。
だってね、今年は桜を見るのはひとりではないから。
風に揺られてひらひらと舞い落ちてくる桜の花びらを、は追い掛けながら両手を広げて取ろうと走り回る。
「クッ、まったくお子様だな」
小馬鹿にした言葉とは裏腹に、の無邪気に笑う姿を見て知盛の口元には穏やかな笑みが浮かんでいた。
裏切りと戦に明け暮れていた頃を思うと、と共に桜を眺めている光景は…春の陽射しのように温かくて平和だと思う。
「やったぁ取れた!知盛さん見て、ほら〜花びらっ!?」
ざぁぁ…
はしゃぎながら、後ろにいる知盛に掴んだ花びらを見せようと振り向いた瞬間、春特有の強い風が吹き目の前を覆う程の花びらが舞い散った。
桜の花びらが幾重にも舞散り、淡いピンク色のカーテンのよう。
「わぁ・・・すごいね…雪みたいに綺麗」
桜吹雪の中、の姿が花びらで霞んでゆく。
その光景は、花びらの中に彼女が消えてしまいそうに見えて…知盛は気が付くとの手首を掴んでいた。
「知盛さんどうしたの?」
知盛の何時もと違った余裕の無い表情に、パチクリと目を瞬かせる。
「…」
知盛はその問いには答えず、手首を掴んだままを自分の元へ引き寄せると温もりを確かめるように彼女の細い首元に顔を埋めた。
突然の行動に、戸惑いと恥ずかしさから身を縮めるが、知盛は決してを放そうとはしない。
「…俺を置いて・・・」
耳元で優しく囁きながら、を抱きしめるさらに腕に力が籠もる。
「どこにも行くなよ?」
痛いくらい強く抱き締められ、もおずおずと遠慮がちに知盛の背に手を回し抱き締めた。
「うん…私はどこにもいかないよ」
の答えに満足そうに笑みを浮かべる知盛。
そんな彼がとても愛おしくて、そっと知盛のキラキラ輝く銀色の髪を撫でてやった。
「来年も、再来年も、その先も…ずっと一緒に桜を見ようね」
「クッそうだな…」
抱き合い微笑む二人の上に舞う桜の花びら。
優しい春のぬくもりの中で、私たちはまた指切りの約束をするの―…
(おしまい)
ここまで読んでくださってありがとうございます。
この話は、以前、仁科奏子さんに捧げた話を中編として手直しをしたものです。
テーマは、優しい知盛さんと一途な女の子の恋。