ドリーム小説
宿舎に戻っただったが、夕食を食べる元気も無くベッドに横になっていた。と言っても、全く寝付けずに毛布にくるまりごろごろ転がるだけだったが。
つい最近、同室の女子はSeeD試験に受かったため宿舎のこの部屋は一人で使っていた。一人になって寂しいようか悔しいような気分でいたのだが、今日ばかりは一人で良かったなと思う。
「どうしようかな…」
枕に顔をうずめていると昼間カールに言われた一言が蘇ってくる。
『ハッ!まーた落ちたのかよ?いい加減諦めたらどうなんだよ』
ごろん、毛布にくるまりながら寝返りをうつ。
瞼をきつく瞑れば、教官であるキャシーに不合格通知を渡された時に言われた言葉が脳裏に蘇ってくる。
『兵士になれば敵の命を奪う事になる。それはモンスターに限らず対人でもね…人の命を奪う事に迷いがある貴女は任務では使えない。
優しすぎるのよ。ハッキリ言うわ、貴女は戦いには向いてないわ。
痣だらけの鍛錬じゃなくて、普通の女性として生きてもいいんじゃない』
ごろん、二度寝返りをうつが一向に眠気はやって来ない。
「はぁ…女性の幸せって、何なの?結婚しろってこと?私は強くなりたかったのに。あの人みたいに…
伝説のSeeD、スコール・レオンハート」
ずっと憧れだった幼い頃に読んだ絵本の英雄は落ち込んだ時、どうやって乗り越えてきたのだろう。
「強くなりたい…」
もっと自分が強かったら両親と姉を助けることが出来たのに。
友人に気を使われることも馬鹿にされることも無く、彼等と肩を並べていたかもしれないのに。
「こんなんじゃ駄目だ!もっと頑張ろう」
武術も魔法も秀でたものはもっていない平凡な自分が英雄に憧れ、彼を目標とするには今以上に鍛錬を積むしかない。
勢い良く起き上がると、は身支度を始めた。
今日は寝付くことは到底出来きそうにない。
愛用の片手剣を携えて、普段は夜には行くはず無いのに、自然と鍛錬場へと足が向かっていた。
* * *
キィィィ!
袈裟がけに斬りつけてダメージを与えると、植物を模倣した巨大なモンスターは怒りの雄叫びをあげた。
「はっ!」
鞭のように目掛けて振り下ろされた蔦を避け切り落としつつ間合いをとる。
一匹目の後ろに控えた二匹目のモンスターからの攻撃が右肩を掠めて、呪文詠唱が一瞬途切れそうになるが、足を踏ん張って堪えた。
「ファイア!」
力ある言葉とともにの片手から炎が放たれてモンスターを包み込む。
残り一匹、そう思いながら蔦状の両手を振り乱しに襲いかかってきたモンスターを迎え撃つために剣を構え直した。
―まだ…
「えっ?」
突然耳元で聞こえた“声”にの反応が一瞬遅れてしまった。
しまった、と思った次の瞬間には目の前にはモンスターの蔓が迫っていて避けられそうにない。
「きゃあああ!!」
襲って来るだろう痛みと衝撃への恐怖ではとっさに両目を瞑ってしまった。
* * *
恐る恐る瞼を開けば目の前に広がっていたのは闇だった。
「なに、私死んだの?」
一向にやって来ない痛みと衝撃に瞼を開けば、モンスターの姿は無く真っ暗闇の空間が広がっていた。
わけがわからないとは何度も目を瞬かせた。
頬をつねってみると、痛い。痛覚は残っているみたいだけど自分は死んだのだろうか?だとしたらあまりに呆気ない。
お花畑では無くこの真っ暗闇が黄泉の世界だとしたら悲し過ぎるじゃないか。
「まだだ…」
先ほど聞こえた声が今度ははっきりと聞こえ、振り返るといつの間にかの後ろにボロボロになった赤いスリットドレスを纏った細身の女性がいた。
体中に傷を負った彼女は力無く今に倒れそうで、慌てては女性の肩を支える。
「あの、大丈夫ですか?」
「まだ、死ねぬ…」
ゆっくりと顔を上げた女性の表情を初めて見て、息を呑んだ。
とても綺麗な女性、美しい顔は苦悶に歪み口の端は切れてしまい見るからに痛々しい。しかし血のように赤い瞳は狂気に近い色が宿っていた。
明らかにこの女性の様子は普通では無い。
とっさに身を引こうとするが、彼女に手首を掴まれてしまった。
「娘、力を望むか?」
血走った眼を向けられ、ぶんぶん首を横に振るが女性は腕を離そうとしない。それどころか尋常ではない力で握り締めてくる。
「は、離してくださいっ」
このままでは危険、離れなければ、本能がそう告げるが体は金縛りになったように動くことが出来ない。
「この力、お前に…!」
女性が叫んだ途端、彼女の体が足元からピンク色の光の粒へと変化していく。
が驚く間も無く、女性の体が全て光の粒となる。
「やだっ」
降りかかる光の粒は、拒否する意志を無視して全てに吸い込まれていった。
(熱い、何これ!?)
がくり、とは膝を突く。
自分の細胞が熱を放ち体の中で何かが暴れているように、込み上げてくる嘔吐感に涙が溢れてくる。
―これで、やっと、解放される…―
やっと?貴女は…ずっと何かに捕らわれていたの?
じゃあ今度は私が捕らわれる番?
これからの事を前向きに考えようと思い始めたばかりだったのに。
後に思い起こせば其処は何処でも無い場所、次元の狭間だったのだろう。
音もなく崩壊を始める暗闇の隙間から一瞬だけ見えたのは…ガーデンの鍛錬場では無く無機質な建物だった。
「落ちるぅ〜!?」
足元が崩壊した瞬間、一気に暗転する世界。
その時はただ、無事ガーデンに戻れるのか。このまま落下を続けたら天井に穴を開けてしまい学園長にこっぴどく怒られるかもしれないかと、そんな事を思っていた。
それが始まり。
2010.7.30. up.
ついに始めてしまいました。しかし、どうなることやら…