1.That can't be true(1)
「天使が降りてきたと思ったの
白い羽根がとっても綺麗だったんだよっ」
頬を紅潮させた少女は嬉しそうに言う。
もちろん大人や友人達は信じてはくれない。
中には夢を見たんだよと笑う人もいたけれど、少女は自分が見た事は本当だと信じて疑わなかった。
だって、お姉さんの背中にはたしかにキラキラと光る真っ白な羽根があったから。
それに、一緒に舞い落ちてきた羽根に触れた瞬間、以前テロに巻き込まれ負傷した足の怪我が治ってしまったから。
1.That can't be true
(本当のはずがない)
森に囲まれた古めいた洋館、それが“私”の住まう場所。
普段なら静かな森だが、現在は異なっていた。屋敷は周りは斧や鍬、鎌などを手に持った人々に囲まれていたのだ。
自室の窓から下を見やれば殺気だった人々は群集心理なのか興奮が狂気にまで高まり、こちらの言い分など聞く耳を持たない。
“魔女には死を!”
呪のようにくり返し人々からの罵声は自分に対するもの。
「逃げ道は無い、か…」
姿を見せたため余計興奮させてしまったかと、窓を閉めながら深い溜め息を吐く。
「ここは私に任せてお逃げください」
側に控えていた剣を手にした青年に、女は首を横に振る。
「いいえ、私は逃げません」
ガチャン!
先程女が顔を出した窓への投石を皮切りに、村人達は遂に屋敷への攻撃を開始した。
“魔女を殺せ!!”
「叶うものならば静かに暮らしていたかったのに…私も人間だというのに酷い言われ様ね」
体の造りも他の人間と変わらないというのに、ほんの少し毛色が違うだけでどうしてこんなに畏怖され憎まれなければならないのか。
「戦いましょう」
俯いていた主が顔を上げると彼女の青い瞳には迷いは消えており、青年は頭を垂れて答える。
「さあ、彼等が望む“魔女”になってやりましょうか」
残忍な結果を望んだのは愚かな人間なのだから。
* * *
ピクリ、指を動かせば冷たい何かに触れた。
「ここ、は…」
瞼を開こうとしただったが、色とりどりの光が瞼の隙間から差し込み二度瞼を閉じる。
「う、まぶし…」
暗闇に慣れきった眼には眩しすぎて慣らしながらゆっくりと瞼を開いていった。
「ここ、教会…?」
色とりどりの光だと思ったのは教会の壁にはめ込まれていたステンドグラスから差し込んだ太陽の光。
神聖な空気、しかし土の匂いと花の香りもして、此処は何かの知っている教会とは違う気がする。
「?」
眠っている間、何だか変な夢を見た気がする。
緩慢な動作で上半身を起こしたの目の前に、薄ピンク色のワンピースを着た幼い少女がいた。
「ぉ、お姉さんは天使なの?」
明るい茶色の大きな瞳を丸くさせ、恐る恐る問いかけてくる少女は6.7歳くらいの年齢だろうか。
頭が寝起きのように重たく、少女の発した言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまった。
「は?天使?」
ぐるりと辺りを見回すが教会内に居るのは少女とのみ。
少女の方がしっくりくるだろうに彼女が言ってるというから天使とは自分のことなのか?
「えー…?私は一応普通の人間だよ」
「うそだよっ」
納得出来ないと、少女はのすぐ近くにしゃがみ込んだ。