1.That can't be true(3)
夜の帳が立ち込め、スラム街が薄暗くなってきた頃、は溜め息混じりに飲食店を出た。
「何なの此処…」
宛もなくスラム街を歩いていただったが、空腹を感じた頃に飲食店と思われる店を発見してこれ幸いと店に入って行った。
「何だこりゃ?」
「何って、お金ですけど…」
なかなか美味しいパスタを食べた後、店主に言われた金額を出したのだがが財布から出した硬貨を見て店主の表情が怪訝そうに歪んだ。
「おいおい姉ちゃん何言ってるんだよ。こりゃどこの国の金だい?ミッドガルの金は、ギルはこれだよ」
店主が出した硬貨は貨幣の呼び名は同じ“ギル”なのに、の持っていた硬貨とは材質は似ていても形が異なっていた。
「えっ!?どういう事?」
混乱しながらも店主に平謝りして、持っていた指輪(ステータス異常になりにくい特性のある)を渡して事なきを得たが、はすっかり途方に暮れてしまっていた。
「これってどういう事なんだろう?」
貨幣が違うとしたらもしかしたら100年前のエスタと同じで外界と繋がりを絶った都市なのか。それとも…認めたくないないが、此処は、自分がいた世界とは異なる場所なのかもしれない。
そんな馬鹿な、とは首を振る。
とりあえず、食事と情報を得ることは出来た。
このミッドガルという都市を支配しているのは神羅という会社。人々は魔胱というエネルギーを使い便利な生活をしているということ。
スラム街はミッドガルの下層部であり上層部に行くにはプレート間を走る機関車に乗る必要があるらしい。
機関車はIDを持っていなければお金があったとしても乗車は出来ない。忍び込んでも途中どIDの所持検査があるため、殆ど不可能。
上層部に行ってみたいが、機関車に忍び込むなんて出来るのだろうか。
「まずは今夜どうしようかな…」
さすがに見知らぬ土地で、しかもスラム街で女の子が野宿しちゃいろんな意味でまずい気がする。
宿はどこかさっぱりわからないし、此処で使えるお金も無い。
金持ちそうな人に武器を突き付けて恐喝するのは人として駄目でしょう。
(先程の教会に戻って一晩を過ごすべきか…いや、ネズミとかゴキブリが出て来たら嫌だな。いやいや場所が場所だから幽霊が出て来たら絶対に失神しそうだし)
パパァーン!
道の真ん中に立って思考に耽っていると、けたたましいクラクションの音が鳴り響きは我に返った。
キキキィー!!
「うっわ!?」
ライトも付けずにを避けることもしないでのすぐ側を猛スピードで走り抜けていくトラック。
「っ!?」
一瞬、走り抜けていくトラックの荷台に備え付けられたほろが風でめくれ上がり、は固まってしまった。
「あれは…」
ほんの一瞬しか見えなかったけれど、暴走トラックの荷台に備え付けられたほろの隙間から見えたのは…
「猿ぐつわされた男の人?」
暴走トラックの荷台に押し込められてる猿ぐつわされた男の人。この状況はどう見ても誘拐だろう。
SeeDだったら、憧れの英雄だったら彼を助けるはず。
しかし、の戦闘能力は一般人に毛の生えた程度だし、ガーデンで授業の一環での訓練はしたことはあっても実戦は皆無だ。下手に動けば自分が痛い目を見るのは容易に想像出来る。
このまま放っておいた方が見殺しにした様で気分は悪いがこちらには被害は及ばない。
「でもでも、あの人は…」
あんな状況で連れて行かれて無事でいられるはずはない。は思わず頭を抱えた。
警察に任せた方が良いとわかっているが、このスラム街で警察なんかあるのか。
このまま彼をほっといちゃいけない気がした。
だって、
「目が合っちゃった」
ほんの一瞬だったけれど自分の見間違いではない。
薄暗かったが、ほろの隙間から見えた男性の青い瞳は確かに何かを訴えていたから。
「たしかこっちに行ったよね」
行かなきゃ後悔しそうだし、もう何とでもなれ、っとは走り出した。