1.That can't be true(4)
薄暗い街頭の光で僅かに舗装されていない道に見えるタイヤ痕を追って、たどり着いたのはコンクリートで建てられた外壁が崩れかけた倉庫。
瓦礫の影に隠れて近付いた建物の側には、先程をひきかけたトラックが停まっていた。
堂々とトラックを停めているのはよほど自信があるのか頭が悪いのか。しかし、単独犯じゃなければ誘拐犯が潜んでいるだろう建物の側には見張りくらいはいるだろう。
(ここは慎重に行かなきゃ…)
全力疾走をした後で乱れる息を抑えつつ、足音を忍ばせては建物に近付いていく。
入り口に近付くにつれて心臓が早鐘を打つ。
何かの衝撃で口から悲鳴が出て来てしまいそうだ。
正直、怖い。
戦うのが、傷付くのが、相手を傷付けるのが。
(でも、ここまできたら引き返せない)
幸い、ガーデンの鍛錬場で戦ったモンスターからスリプルをドローしてある。
こんな事ならコンフェもドローしておけば良かったが、スリプルで誘拐犯を眠らせればあまり相手を傷付けないですむ。
音をたてないようにはゆっくりと入り口のノブを回した。
***
どういうつもりなのか聞くまでもなく、自分を拉致した者達の目的は理解していた。
立場上、生まれてから今まで誘拐やテロ等で命を狙われた事は何度もあったため、こんな状況は悲しいかな慣れていたた。そのため青年は取り乱すような愚かな事は無い。
目隠しに猿ぐつわをされていては青年が自分の置かれている状況を探れるのは聴覚と触覚のみで、冷たいコンクリートの感触と背中に回され縄できつく縛られた両手は、痺れていて殆ど感覚が無かった。
護身用にジーンズの後ろポケットに忍ばせていた拳銃はすでに奪われている。
油断していたとはいえ、攫われる前の状況が状況だったため青年は、これは面倒な事になったと感じていた。
「育ちのいいお坊ちゃんにはこんな埃臭い場所は苦痛かもしれないが、お坊ちゃんの父親と交渉するまでのしばらく我慢していてくださいよ」
「へっ、こんなガキを閉じ込めておくには上等すぎる場所だぜ」
足音や声、体臭から判断するとこの部屋に連れて来られてから自分を監視している男の一人はまだ若い年代の男、組織の下っ端というところか。もう一人の男は下っ端より年齢も力も上、しかも自分に対して良く思っていない上に短気で頭も悪そうだ。
冷静に状況整理している自分が可笑しくなる。
そう言えば…先程トラックの荷台にいた時に偶然すれ違った女性は自分に気が付いてくれただろうか。
彼女から警察あるいはタークスあたりに情報がいってくれれば、この事態を打破出来るのだが…
「しっかし、お坊ちゃんは冷静で面白くねぇな…もう少し怯えて命乞いでもしてみせろや、お前の父親に殺されたヤツらみたいにさ!」
「……」
微動だにしない青年の様子に男の口元が引きつっていく。
「このっ…!」
今にも青年を殴りつけようとする男を、もう一人の男が慌てて止める。
「ちょ、ちょっと止めてくださいって!お坊ちゃんは大事な人質なんですから」
「くっ、神羅との取引が終わるまで生かしてやる。だがよ、その後は…」
ニタニタと男が下品に笑ったのを感じ、青年は嫌悪感に眉を寄せる。
(この状況から抜け出したらこいつらをどう潰してやろうか)
嫌悪感と同時にこの男達の残酷な未来を頭の中で描いていった。