1.That can't be true(5)
ぐらり、と傾く男の身体をは慎重に支えて、音をたてないように壁に寄りかかって座らせる。
「はー危なかった」
コンテナの角から身を乗り出した瞬間、頭に銃を突きつけられた時は正直叫びそうになったが、とっさに唱えたスリプルが成功して何とかなった。
倉庫にいた男はやはり複数人数のグループで、しかも持っている重火器は一般的な銃ではなく軍用や改造された物ばかり。誘拐犯に知り合いはいないけれど、一般的な誘拐犯とは違う気がする。
の気配に気が付くのも早いし、身のこなし方も明らかに何らかの訓練を受けている者達だと感じた。
運が良いことに今まで見つけた誘拐グループの男8人全員、スリプルが成功して夢の中だ。
「あとは地下だけか…」
倉庫の一階と二階を調べても特に何も無し。コンテナの中も人の気配は無いし、残る捜索場所は地下のみとなった。
「う〜オバケかモンスターが出てきそう」
薄暗い地下室はいかにも何か出てきそうでつい躊躇する。怖いが灯りを付けるわけにはいかない。
壁に手をあてながら慎重に階段を下りる。階段を下りきる頃、に緊張に体を強張らせた。
(灯りが漏れてる?)
階段の角からでは姿までは確認できないが、耳を澄ませば男の話し声が聞こえる。
「ちょっと休んでくるからな、見張りを頼むぜ」
「はい、お疲れ様です」
遠ざかる足音を確認し、一気に階段から扉を目指す。
「っ!?」
「スリプル」
の登場に驚いた男が声を発するより前に、早口で呪文を唱えると男はその場に崩れ落ちた。
* * *
見張りの男が部屋を出た後、扉の外から女の声が聞こえ…何事かと青年は目隠しをされたまま出入り口に視線を向けた。
男達と比べて軽い足音が近付いてきて、細い指が青年の視界を覆い隠していた目隠しと猿ぐつわを外す。
久々に自由となった視界に青年は一瞬目眩に襲われたが、自分を心配そうに見つめる黒髪の若い女性の姿に目を細めた。
「君は…?」
「だ、大丈夫ですか?」
猿ぐつわと目隠しの布をされた男性は、薄暗い室内でも綺麗だと分かる金髪にアイスブルーの瞳が印象的な美人だった。年齢は自分とさほど変わらないくらいか。
美人さんに見つめられどぎまぎしながらも彼に問う。
「怪我、していませんか?」
青年が頷いて答えると同時に、外が騒がしくなった。
「なんだ、どうした!?」と言う男の声と、ドカドカと重い足音が近付いてくるのが聞こえての顔色が変わる。
「やばっ今縄を解くからじっとして…」
バタン!
青年の後ろ手で縛っている縄を解くのと、スキンヘッドの厳つい男と細身の若い男が入ってくるのは同時だった。
「な、なんだお前はっ!?」
スキンヘッドの男は居るはずのないの姿に目を見開き、青年とに銃を向ける。
「馬鹿打つな、お坊ちゃんに当たる!どけっ!」
スキンヘッドの男を押し退け、細身の男が目掛けて突進する。
男の手元が薄暗い電球の光を反射して、反射的には剣で胸元をガードした。
キ、キン!
男の手には鋭い大振りのナイフが握られ、身を退いて剣を構えるに襲いかかる。
「くっ」
かわしたつもりだったナイフが服を掠める。
動きから男は戦い慣れしているようだった。実践は素人のではこのまま戦い続けたら負けるのは目に見えている。
ギィン!
ナイフの切っ先を片手に持った剣で受け止めると、は片手を男の目の前に突き出した。
「スリプルッ!」
一か八かの詠唱無しで力ある言葉を叫ぶと男はその場に倒れ込む。
そのままの勢いで、スキンヘッドの男に間合いを詰めた。
「はぁっ!」
「ぐおっ!?」
力一杯男の股間を蹴り上げ、男が悶絶してうずくまったところに剣の柄で延髄を殴りつけてやった。
「ハァハァハァ…」
…やった、必死だったけどやれば出来た。
膝が震えてその場に座り込みたい気分だったが、このままじゃ眠らせた誘拐犯達が目を覚ましてしまうし、青年を連れてこの場を離れる事が先だ。
「立てる?バレちゃったみたいだから早く逃げよう」
「ああ」
泥のように眠っている男をチラッと見ると、青年もの後に続いた。