01

あたしは可もなく不可も無い、何処にでもいる普通の女子高生だった。
特に怨みを買うような事や、トラブルに巻き込まれるような覚えも無い。
それが…17歳の誕生日に一変したのだ。


“トンネルを抜けたら異世界でした”もとい、“トンネルを抜けたら異世界でした”

…んな馬鹿な!?











自分の身に起こった事態に、あたしは未だに状況についていけなくて茫然自失となっていた。


「何処よ、ここ…」


辺りを見渡せば、舗装された道に大小様々な建物。
路肩には露天商が立ち並び、店主と客との駆け引きや人々の喧騒に包まれている。
商店街の歩行者天国のようだが、その人の多さは「今日はお祭りですか?」と思うくらいだった。

頭上を見上げれば、少し離れた場所に地上何十階建てかというくらいの高層ビル。
一瞬東京かと思ったが、直ぐにその考えを打ち消す。東京にしては奇抜な髪色や恰好をした人が多すぎる。


「これも夢?」

頬をつねってみると、頬にはジンジンとした痛みを感じた。
前方のクレープを売っている店からは甘い香りが漂っているため、嗅覚もちゃんと働いている。
夢は痛覚と嗅覚を感じないと以前どこかで聞いたが…違うのか?


「あれ?服が変わってる…」

視線を下に下ろし、自分の服が変わっている事にようやく気が付いた。
直ぐに寝れるようにと、パジャマを着ていたはず…
今の服装はパジャマではなく、体にピッタリフィットしたタンクトップを重ねて、
下はスキニーパンツというラフだが身体のラインを強調した服で、正直恥ずかしい。
いつの間に着替えたのだろ。何度思い返しても着替えた記憶は無い。
ということは、やはり夢を見ているのだろう。

もう一つ此処が夢だと判断する物があった。
それはあちこちで見掛ける見たことがない記号。

店先に書かれている事から、おそらくその記号は文字だろう。
日本語でも英語でも無く、ハングル文字や古代文字に近い感じがする。
普通なら解読不能だが、何故かには理解できたからだ。
自分が立っている横の店舗に書かれているのは…〈ベティ雑貨店〉


「何で読めるんだろ?」

首を傾げるが、直ぐに答えに行き着いた。やけにリアルだが、これは夢。
その内に目が覚めるだろう。


(きっと、そうだ。だったら今は夢を楽しんじゃお)



納得したところで悩むのを止めて、改めて自分の持ち物を確認する事にした。

まずは手に持ったままの携帯、ディスプレイには“圏外”の表示が出ていて使えそうにない。
夢の中で携帯を使えるとは思っていないが。
パンツの後ろポケットにはカードが数枚入ったカード入れ。
カードはキャッシュカード数枚と〈ライセンス〉と書かれたカードのみ。
何も無さすぎて少し拍子抜けしたが、夢に文句は言えない。

「お店見たいけど、お金が必要だよね…キャッシュカードがあるならお金入っているよね。銀行探さなきゃ」



一人頷くと、は銀行を探して歩き出した。
物陰から、自分の後ろ姿を見送る影に気が付かないまま…










* * * *









ウィィ…ン

銀行の自動ドアが開き、はふらつきながら外に出た。
都市のため、排気ガスやら何やらでけっしてキレイでは無いはずの外の空気がやけに美味しく感じる。


「はぁ何か疲れた…」


大きな都市のため、目的の銀行はすぐに見つかった。
何度かATMは利用したことがあったため、操作手順はわかったが指紋認証やら声紋認証までされてしまい、
そこまで慎重なのに首を傾げてしまう。
―が、ATMの画面に表示された残高金額を見て凍り付いた。


「ななな、何じゃ?このケタ数…」


一十百千万…億単位まで数えて、頭痛がしてきたため止めた。
手元にあるキャッシュカードはあと5枚…残高確認するのが怖すぎて、身体中から変な汗が噴き出してくる。
挙動不審な様子に警備員のおっさんの視線が突き刺り、痛い。


震える指でとりあえず、服や食べ物を買うために5万程引き出すことにした。


(さて、先ずは軽くご飯食べようかな)

実は、先ほどウロウロしていた通りがクレープやファーストフード店が立ち並ぶ通りだったせいか、小腹が空いていたのだ。
夢の中で空腹を感じるなんて何とも可笑しな話だが。
銀行の建つ大通りから少し奥まった道に入って、は足を止めた。
ある一軒の店から焼き肉を焼いている美味しそうな匂いにがする。
女の子一人で焼き肉…いくら何でもキツいかしら。



「?」

どうしようかしばらく悩んでいると、背後に人の気配を感じては振り返った。