「ねぇ、彼女どうしたの?」
振り返った先に居たのは、二人組の男。
声をかけてきたのは外見にばかり気を配ってそうな所謂ギャル男。ニヤニヤ笑うその顔が生理的に受け付けない。
ギャル男の後ろにいるのは体躯も良く、浅黒く日焼けした肌に鋭い眼の強面の男。
ギャル男はチンピラ風だが、この男はカタギでは無い気がした。
「えっ、あたし?」
キョロキョロと辺りを見回すが、自分以外は誰もいない。
「綺麗な顔を曇らせちゃって、さ。困っている事があったら相談にのるよ〜?」
「き、綺麗って…」
生まれからこのかた、可愛いと言われた事はあっても(ちびっこの頃はかろうじてあったけど)綺麗なんて言われた事は無く、どう返事をするべきか困惑の表情を浮かべた。
顔をひきつらせながら後退るに、ギャル男は詰め寄りさらにまくし立てる。
「大丈夫だって俺は紳士だし、この人見た目怖いけどお姉さんみたいな美人さんには優しいから」
ギャル男の後ろで、強面の男が自分を品定めするようにじろじろと見られ嫌悪感がつのる。
正直、今までナンパなんてされた事もないはどう対応したら良いかわからない。
だからといって、この二人について行く気には到底ならない。
「…いえ、大丈夫ですからお構いなく」
足早に立ち去ろうとするの腕を、ギャル男が掴んで引き止める。
「そんなつれない事言わないでもっとお話しようぜ」
ニヤニヤ笑いがが厭らしいものに変わり、その気持ちの悪さに眉をしかめ睨みつけるが男は怯むことはせず、さらに腕の力を込める。
「ちょっ、止めてください!」
「はははっ怒った顔も可愛いじゃねーか」
笑いながら強面の男が親指で唇を撫でてきて、の嫌悪感がピークに達した。
「そうそう、俺達と一緒に遊ぼうぜっぃ!?」
急にギャル男が短い呻き声をあげて膝から崩れ落ちる。
の右肘がギャル男の鳩尾に見事に入ったのだ。
とっさの事とはいえ、これにはも驚きに目を丸くした。
「あ、えっ?大丈夫ですか!?」
自分の行動と腹を押さえて悶絶するギャル男にオロオロ戸惑っていると、強面の屈強な男が青筋を浮かべながらの目の前に来る。
全身から怒気を立ち上らせ、鬼のような形相での両肩を掴みかかる。
「何しやがったこの女ぁ!?」
「きゃあっ!!」
余りの恐怖に目を瞑り、ぽんっと、ただ腕を突き出し男を押しただけだった。が、
「がっ!?」
どぎゃっ
派手な音をたてて、男の身体は薄汚れたコンクリートの壁に叩きつけられた。
「ご、ごめんなさい」
呻き声に瞼を開いたの視界に飛び込んできたのは、激しく咳き込む男の姿。
「う、ぐ…優しくしてたら、舐めやがって…」
ヨロヨロと立ち上ると男は血走った目でを睨みつけた。男の手が羽織るジャケットの内ポケットから黒光りする何かを取り出し、構える。
「うそ…」
男が手にする黒光りする物、拳銃を確認しての顔から血の気が失せていく。
「綺麗な身体に傷付けるのは残念だが…お姉さんなら死体でも高く売れるだろうぜ」
拳銃…死体…売る…
その単語を呟くと、の思考が一気に真っ白になっていく。
男の指が拳銃の引き金にかかる瞬間、は男の脳天に回し蹴りをくらわしていた。
「っ何なのこれ?」
男に回し蹴りを食らわせ昏倒させると、は全力疾走していた。
銃を突きつけられた恐怖、初めて他人を傷付けてしまった事に対する罪悪感を感じていたが、今は構っていられない。
(っ〜!!何これっ?!いくら夢にしては質悪すぎ!!)
あれから何処をどう走ったか解らないが、薄暗い裏路地から大通りに抜け出ることができた。
さすがにこんな人が多い場所では何も無いだろうと、はようやく肩の力を抜く。
気を取り直して買い物をしようかと、通りすがりの店を覗こうとして…
「っ!?」
ショーウインドウを見て唖然とした。
「誰、これ?」
ショーウインドウに映った其処に居たのは…
スラリと長い手足に透けるような白磁の肌、プラチナを彷彿させる光に煌めく銀髪をサラリと流し何より深紅の瞳が印象的な、とても綺麗な美女。
頬に手をあてればショーウインドウに映る美女も頬に手をあてる。
何度見ても、間違い無く彼女は自分。
「綺麗になりたい」誰もが考えたことがあると思うが、自分も幼い頃はそう思ったことがあったけれど…
まさか、そんな…
振り返ると側を歩いていた男性と目が合ったため、ニコリと微笑むと男性は顔を赤らめながら軽く頭を下げた。
なる程、さっきのチンピラが「綺麗」と言った意味がわかった…は溜め息を吐く。
いくら夢でも、軍資金はたんまりあるわ腕っ節は強いわ外見も変わってしまうなんて…
「サービス良すぎじゃないの?」
溜め息混じりには思わず天を仰いでしまった…
…To be continued.