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PiPPi〜♪〜Pi〜Pi〜♪


(何故に笑点!?)


事務所内で鳴り響く間の抜けた携帯電話のメール受信音に、事務所に居たほとんどの者がそう思った事だろう。
そんな事はお構いなしに、携帯電話の持ち主であるはディスプレイを見つめて固まっていた。


“明日、12時に中央広場で待ってる”


何も無かったら「デートの誘い!?」と小躍りしたいところだが…
表示されたメールの送り主の名前を見るとメールをの返信ボタンを押すのは、躊躇う。
なぜならメールの送り主は…

“クロロ:ルシルフル”

彼とは先日思いもよらず(向こうは計画的?)再会し、あれよあれよという間に翌日も同じカフェで会うことを約束させられてしまった。
その時に半ば無理矢理アドレス交換をさせられ、時折クロロから連絡が来るのだが…


「なになに?、彼氏からのメール?!」

「わっちょっと!違うって〜!!」


後ろから覗き込んできたサラが放ったとんでもない一言を、慌てて否定する。
クロロが彼氏だなんて、嫌がらせに近い大いなる勘違い。
短い付き合いだが、彼がドSなのはわかる。
まったく、パーティー会場で会った爽やか青年はどこに行ってしまったのか。


「んだぁ男だぁ〜!!?」

やり取りを聞きつけて、喫煙スペースで一服していたヤスまでも飛び出して来た。

「そうみたいよ〜顔に似合わず奥手かと思ったらいつの間にか彼氏を作っているとはねぇ〜」

「だっ、だから違うって。最近知り合った人で、別に彼氏とかそんな対象じゃないの」


両手をバタつかせあたあたと否定するが、サラには照れ隠しをしているとからかわれてしまう。

「男が出来てもいいけどよ」

とか言いつつ、渋い顔をしながらヤスはの頭を小突く。

「気をつけろよ」

言われた意味をわからないでキョトンとしていると、ヤスはチッと舌打ちをする。

「マスコミ連中さ」

「あたしなんかにマスコミ?」

有り得ないでしょ?そう首を傾げるとサラにまで溜め息をつかれた。


「事務所はよ、の情報はあまり外に出して無いからな。ネット上には「の情報を買う」ってなマニアな奴もいる。お前は自分が思ってる以上に注目されてんだよ」

「そ〜そ〜せめて彼氏と会う時は変装しなきゃ」

「彼氏じゃないけど。う〜ん変装かぁ〜」

今まで変装など考えた事は無かった。というか、世間の評価など気にした事は無かったが、
知らぬ間にネット上でそんな恐いやり取りがされていたなんて…気持ち悪い。


「だが、気を付けるのはマスコミだけじゃないがな…」

声を抑えたヤスの呟きは、どんな変装にするか盛り上がるとサラの二人には聞こえて無かった。










* * * *








ヨークシンシティ中に鳴り響く中央広場の時計の鐘はとうに鳴り終え、腕時計を確認すると時刻は12時30分。
呼び出しに、何だかんだ文句を言いながらも5分前には来ている彼女はまだ姿を現さない。
それどころか何度かかけている電話にも出ないとは、自分をこれだけ待たせるとは随分といい度胸をしている。

広場のベンチに腰をかけ、長い脚を組みながらクロロは軽く舌打ちをした。
遠巻きにチラチラと、意味ありげに見てくる女達の視線が鬱陶しい。
いい加減痺れを切らして立ち上がろとした時、クロロの待ち人である彼女の目立つ気配が近付いて来たのがわかった。


「ごめんなさ〜い!クロロさんっ」

「遅いっ……!?」


文句と嫌味の一つでも言ってやろうかとクロロは振り返って、止まった。
いや、固まった。




「…何の冗談だ?」


石畳を走ったためか息を切らしながらやって来たのは…
肩までの前下がりボブの黒髪、白い半袖ブラウスを第二ボタンまで開け首から赤いリボンを下げ、
紺色のミニスカート、黒のハイソックスを履いた女子高生。
見た目は完璧なる女子高生だが、赤い瞳と身に纏う気配はで…




「えへっ似合う?」

「…ついに、コスプレ趣味にでも目覚めたのか?」

「違うって!これは変装なの。最近、変な人が多いからさ〜でもイケてるでしょ?」


楽しそうにヘラッと笑いながら一回転してみせたた。

初めて会った時は着飾り畏まっていたためか“妙齢の女”を感じさせたが、今の彼女は17、8くらいの少女に見える。
制服が妙に似合っていて、先程一回転した時に翻ったミニスカートから覗く太股に近くにいた数人の男達の視線はくぎづけになっていた。

クロロは自分の服装を見て苦笑いを浮かべた。
今の彼は髪を下ろし黒い細身のスーツにワイシャツを着崩した、一見すると仕事の合間に休憩するビジネスマン。

(これじゃ怪しい交際をしているみたいだな。逆効果だ馬鹿)


「目立ちたく無いのなら、絶を使えばいいだろう」

「絶?絶って何ですか〜?」

阿呆みたくパチクリと目を瞬かせる。
そうだった。彼女は絶どころか念の存在自体知らなかったのだ。
前回会った時、自然に纏を行っているのに念を知らないというあまりの無知さ加減に、
見かねたクロロがに念についての基礎知識を教えたのだが…


「それってこの前教えてもらった念の一種?」

「ああ覚えているか?」

「えっと〜生命エネルギー、オーラが“念”で、それを自在に操作・増減するのが念能力…だっけ?」

腕組みをして唸りながら答えるを見ながら、クロロは先日の事を思い出す。
念の基礎中の基礎知識を教えてた後、興味半分で錬をやらせてみたまではよかったが…

街から外れた廃墟群だったのが幸いした。
彼女の錬は予想以上で、その威力は辺りの瓦礫を弾き飛ばし、クロロもとっさに堅でガードしてしまった程だ。
それを目の当たりにして、気付けば口元を愉悦に歪めていた。
滅多に動揺する事は無い自分が、だ。


「まぁ間違ってはいないな」

「絶かぁーよくわかんないけど、もしかしたら知っていたかもしれない。念についてもだけど……だから、直ぐに出来たのかな…」

「何だと?」

そんな事は初めて聞いた。
珍しく考え込むに、クロロは思わず僅かに眉を寄せる。

「あっ…あたし、こっちでの記憶がごっちゃになってるみたいだから」

そこまで言うと瞼を伏せながら曖昧に笑った。

(あたしの今の身体は此処に来る前、17年間自分だと思っていた身体とは違う。…きっと今までこの身体を動かしていた人は別に存在している。身体能力が上がっているのもそのせいで…なら、今までのあたしは?死んでしまったのかな)



珍しく瞼を伏せたまま黙り込んだをクロロは無表情にじっと見つめる。
見られているのに…こんな真っ昼間から泣きたくはないのに、堪えきれず長い睫が震えだした時、
ポンッ と頭に大きな手が置かれた。

「我慢するな」

「…我慢してないもん」

幼い頃から培った意地っ張りで負けず嫌いな性格のせいで、素直に人前で泣くことは出来ない。
こんな美人さんが慰めてくれてる(多分)のに、本当に損な性格だなと思う。

「なら、その下手くそな笑いは止めるんだな。不細工だぞ」

「う〜〜」

片方の眉を上げ、意地の悪い顔をしながらもクロロはずっと頭を撫で続けてくれた。
ドSだと思っていたらのに意外と優しい事に、少しだけ安堵した。
…ほんの少しだけど。
この安堵する懐かしい感じは…誰かに似ている。…そうかこの人は、


「…そっか、クロロさんって兄貴に似ているんだ」


顔は全くもって兄貴とは似ていないが、ツンデレな所が良く似ている。
ポツリ、そう言うと頭を撫でていたクロロの手が止まったが、はぼんやりと意識をとばす。



「兄貴…元気かなぁ」

喧嘩ばっかりだったが今は素直に会いたいと思う。あえて考えないようにしていた家族の事を思い出すと、兄貴に、家族に無性に会いたくなってきた。

(もしかしたらあたし、今すごく寂しい、のかな)

でも此処で泣いたらクロロに迷惑がかかる。いやからかわれそう。






不意に、頭を撫でていたクロロの手に力が籠もった気がした…―と、額に柔らかい感触が触れた。

不思議に思い、顔を上げれば黒髪黒目美人のドアップ。
意識をとばしていたとはいえ、引き寄せられた事に気が付けない程自然な仕草で引き寄せられて…
クロロに額に口付けられたのだ。


「うぇっ!?」

驚いて飛び退こうとするが、後頭部を押さえられていたためそれはかなわない。
わけがわからず顔を赤くして目を見開いていると、額を人差し指で軽くつつかれる。


「何を慌てる?額なら友情だ。いや、兄貴からの親愛の証だよ」

「えぇそうなの?そうゆーものなの〜!?」

そんな話は聞いた事は無い。
でも、以前居た世界では異国の人達の中には「はぐ」や「ほっぺにチュッ」は挨拶がわりにしていることだし、
クロロの故郷では普通の事かもしれない。

「でも、いきなりこんな事するのはビックリするよぉ」

唇を尖らせながら額を撫で、顔を赤くする。

「クスッ、ようやく戻ったな」


再度頭を撫でるクロロの微笑みがあまりに綺麗で、彼の横から離れたいような離れがたいような…複雑な気持ちになる。


(何だろうコレ…?)

額にキスをされた時以上に顔が熱を持っているのを、パタパタと手で扇いでごまかした。







…To be continued.