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そして事情を伝えなければならないもう一人の人物…彼にはどうやって説明しようか。



「どうしようかなぁ」

今回は珍しく自分から彼にメールをし、約束を取り付けた。
待ち合わせ場所の高台の公園に早く来てしまったはベンチで抱えた膝に顎を乗せて座っていた。
もちろん黒髪のカツラをかぶって、制服を着た女子高生の姿で。

待ち合わせ相手であるクロロに何て言ったらいいのだろうか。
いや別に親でも恋人でも無い、友達である彼に伝えるのに悩む事は無い。
言ったら言ったで「そうか」とか意外とアッサリとしていそう。




― 貴女は彼のことが、好きなの? ―



ただ、夢の中で彼女に聞かれた言葉がずっと引っかかっていた。
好きって何だろう。好きか嫌いかと聞かれたら好き、なんだろうけど。この好きはLikeであってLoveではない。
彼の事が男の人として好きだとは…


「ちがうもん。そんなんじゃないもん」

抱えた膝に顔を埋めて呟いた。


「何が違うんだ?」


突然真上から声が降ってきて、はビクッと肩を揺らす。
顔を上げればいつの間に来ていたのか、クロロが真上からを見下ろしていた。
今日はジャケット無しのシャツだけというラフな服装で。

青空をバックに立つ姿は、歯が白く光って笑顔が素敵な爽やか青年にすら見える。
ついにクールビズに目覚めたの?と聞こうかと思ったが睨まれそうで止めた。

(美人だから無言の迫力が恐いんだもん)

というか、心臓に悪いから気配を消して近付かないでほしい。

「びっくりした…気配を消して近付かないでくださいよ」

「俺を呼び出すとはいい度胸だな」

片方の眉と口の端を器用に吊り上げて笑う。
…どうしてこの男はこういう偉そうな言い方をするのか。黙っていればとても美形なお兄さんなのに。


「うん…ごめんなさい」

「今日は珍しく素直だな。体調が悪いのか?それとも、甘いものを食べ過ぎて脳細胞まで糖分に侵されたか」


ムッと反論しかけるが、今日はいつもみたいに喧嘩(一方的な)は駄目だと思い、堪える。

「あのね、その……暫く仕事をお休みにして、旅に出ることにしたの」

「ふうん、そうか」

やっぱりそんな答えか。予想通りの反応とはいえちょっぴりショック。
あれだけ悩んだのは何だったのかと、ションボリうなだれてベンチに人差し指で“の”の字を書いていると、クロロはドカッと隣に腰掛けた。


「で、どこに行くんだ?暫くってどのくらい?」

意外な言葉に、は何度も目を瞬かせる。

「ええっと、1ヶ月くらい?ファムタールシティに行くつもりなの」

「何故、また?」

「何故って聞かれても…どんな所か行ってみたかったし、ちょっとした調べ物のため、かなぁ」


調べ物、と聞いてクロロが一瞬怪訝そうに眉を寄せた。
がそれを捉える前に消え、直ぐにいつもの無表情に戻ったが。

「調べ物?一体何を調べるつもりだ?」

「えへへ内緒ー」

クロロが興味を示した事が嬉しくて、はヘラッとした笑みを浮かべる。
すっかり機嫌を良くして鼻歌でも歌い出しそうなの頭に、クロロは無言のまま片手を置いた。

「へっ?なんですか!?」

クロロからどす黒いオーラを感じて彼から逃げようとするが、頭に置かれた手のひらがの頭を鷲掴むと徐々に力が込もっていく。


「へぇー俺に隠し事とは…今日のお前は本当にいい度胸をしているな」

愉しそうにニッコリと笑い、逃げようとするの頭をギリギリと締め上げる。
端から見れば恋人同士のジャレあいに見えるかもしれないが、やられているにしたら堪ったものではない。
それはもう、頭蓋骨を割られてしまいそうな勢いのアイアンクローで…


「いたたたたたっ!痛いっはーなーして〜ぇ。ギブギブッ」

(こんちくしょ〜鬼っ!悪魔っ!このドS貴公子…)

目尻に涙を溜めて、クロロの肩をバンバン叩いていると、ようやく地獄のアイアンクローから解放された。
涼しい顔でいるドS男を涙目で睨み付けて、声に出さずに心の中で悪態ついてやった。(多分、口に出したらもう一回アイアンクローされるから)


「なんだ?話す気になったのか?」

「こ、これは超個人的な事だし…それにクロロさんには関係ないじゃないですか。もぉ何なんですか〜」


ベンチに腰掛けたままジリジリ離れようとする

クロロは口元に手を当て、そうだな、と呟いた。
確かに何故こだわる必要があるというのだ。


「何故か…、確かにそうだな。だが奇遇だった。俺も急に仕事が入って、もう少ししたらヨークシンを離れるつもりだったしな」

つい先日、蜘蛛のメンバーであるシャルナークから「滅亡したとある国の秘宝が、期間限定で国立美術館に展示される」との連絡を受けたのだ。
それは取るに足らない簡単な仕事だったが、がヨークシンを離れるのなら別に引き受けてもいいだろう。





「ふぅん、そうか」

そう言ってやった時は、目に見えて落ち込んでいるがたまらなく可愛らしく思えて、ついからかいすぎてしまったか。
わざわざファムタールシティへ行く理由が気にならないわけでは無いが、彼女を泣かせてまでも知る必要は無い。

しかし、はこんな調子で一人旅に出ても大丈夫なのか?旅に出る事をメールや電話ではなく律儀に会って伝えてくるのもそうだが…彼女は想像以上に真っ白で危ういかもしれない。
旅先で妙な輩に騙されたり、もし何かあったらどうするのだ。
……そう思ってしまう自分は、相当彼女に入れ込んでしまっているのか。
何て事だ、と思わず右手で顔を覆った。


「…。離れている間は、定期的に近況を連絡しろ」

「何で?」

「お前はケーキに釣られて誰にでも尻尾振って付いていきそうだからな。兄貴としては心配になるだろ?」

溜め息混じりに言えば、みるみるうちに赤くなる彼女の顔。


「うっさい〜!子ども扱いするなっクロロさんのバカたれ〜!!」

彼女の叫び声は公園中に響き渡ったという…



ドSの彼までこの調子……どいつもコイツも過保護すぎると思った1日。







…To be continued.