本当に勘弁してほしいと思う。
先ほどから、後方で不機嫌オーラを滲み出している彼をチラリと見て…シャルナークは溜息をついた。
予定通り美術館から目当ての品を盗み出して、さあこれから分け前の話でもしようかという所だったのに…電話をかけてくると言って携帯電話を片手に出ていった団長は、しばらくして戻ってくるといきなり不機嫌モードに突入していた。
普段から、クロロの時でもあまり感情を表に出さない団長が、珍しく感情を表に出してイライラしているみたいだから気をつかってビールを勧めたら睨むし。
何だよこれって八つ当たり?
マチなんか露骨に「なんだコイツ」って顔に出してるし、コルトピは珍しい団長に不思議そうに首を傾げている。
携帯片手に顎に手を当てて座っている姿は、まるっきり“彼氏からの連絡を待つ女の子”だ。(自分で考えて気持ち悪い)
「団長…女にでもフラレたの?」
隣に来たコルトピに聞かれてシャルナークはうーんと唸る。
「さぁ?最近団長に特定の女っていたかな?」
記憶を探ってみるが思いつかない。
自分も人のことは言えないけど、団長は女が出来ても大概の場合は長く続かない。
付き合っていて自分にメリットがあるか、余程身体の相性がいい場合はそれなりに付き合うみたいだけど。
「そういえば団長、最近ヨークシンに滞在していたみたいだからそこで知り合ったのかもね」
PPPPPP…
マチの呟きと同時に、殺風景な室内に無機質な電子音が響く。
三人の視線が集まる中、黒コートの男はサブディスプレイに表示された名前を確認すると携帯電話に出た。
「ああ、俺だ」
携帯電話から少し焦った女の声が聞こえ、不機嫌だった彼の口元が少しだけ緩む。
先ほどまでの苛つきが嘘のように晴れていくのが傍目からでもわかった。
携帯電話の相手と話しながら、仲間の視線に煩わしそうな顔すると彼は部屋から出て行った。
わかりやすい男の態度に、思わず残された三人顔を見合わせてしまった。
「何あれ?」
「電話の相手が団長の新しい女ってのは確かみたいね」
「へー今度はどんなコなんだろ?今度こっそり探してみようかな」
沸き上がる好奇心にシャルナークは口元に笑みを浮かべる。やはり色恋スキャンダルは楽しいものだ。その相手が自分の仲間、団長…クロロなら尚更。
「はっ、悪趣味なことは止めなよ。いくらなんでも団長は怒るんじゃないかい」
「バレないようにやるから大丈夫。マチは気にならない?」
「そりゃぁ少しは気にはなるけど…」
「あっ」
これからの企みに胸を高鳴らせていると、コルトピが前髪でほとんど隠れている目を開いてシャルナークの後ろを指さす。
「シャル…何か余計なことを考えていないか?」
何時の間に戻って来たのか…声をかけると同時に、絶を解くと全身から吹き出る黒いオーラを隠そうともしない相手の、普段より1トーン低い声が聞こえてきた。
「シャル、ご愁傷様」
そう言って、両手を合わせたコルトピを今度殴ってやろうと思う。
…To be continued.