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朝食を済まして直ぐに、ペドロとダウが宿泊している日本の旅館、この世界ではジャポン風の宿を訪ねると二人はすでに宿のなかなか趣のある日本庭園で朝の鍛錬をしていた。
爽やかな朝日の中、男二人が汗を流す姿はあまりいい絵ではない(美形なら絵になると思うが)。
今朝ばかりは、は加わる気がおきずに宿の縁側に腰をかけて彼らの鍛錬を眺めていた。


暫く組み手を行ったあと、戻ってきたペドロにタオルとミネラルウォーターが入ったペットボトルを渡す。

少し遅れて戻ってきたダウにタオルを渡すを見て、ふとペドロが声をかけた。

「そういえば、の念の系統って何っすか?」

「念の系統?」

唐突に聞かれた事に、はうーんと首を傾げる。


「…知らない。何だろう?」

「水見式やった事は無いのか?」

ペットボトルのミネラルウォーターを一気に飲み干したダウも意外そうに声をあげる。


「…うん、ない。水見式ってなに?それってやった方がいいの?」



(か、可愛い…)

目を大きく見開いて見上げてくるを見つめて、ダウはゴクリと生唾をのんだ。


「どうしたの?」

慌てて伸びた鼻の下を直し、涎を拭くと大げさに頷く。


「そ、そりゃ、念能力者なら自分の系統を知っていた方がいいだろ」

「ちなみに俺は強化系で…」

「僕は変化系っすよ。じゃあ部屋に戻ったらやってみようか。丁度師匠はまだ爆睡中だし…」

畳敷きの部屋の中央に、胡座をかいて座るの前に水がなみなみと注がれたグラスが置かれる。


「このグラスに手をかざして練を行うのね」

「ああ、グラスに起こった変化によって念系統がわかるって寸法さ」

「水の量が増えるのは強化系、水の味が変わるのは変化系、水に何かが混じるのは具現化系、水の色が変わるのが放出系、葉が動くのは操作系。で、それ以外の変化は特質系…ま、特質はレアなんすけどね」

頷くとはグラスに両手をかざし、意識を集中させると練を行う。



皆無言となり、張り詰めた空気の中静かにグラスに注がれた水がざわざわと波打っていく。

ペドロ、ダウの二人も自信も一瞬「操作系か?」と思ったが、直ぐに考えを改めた。

グラスに浮かべられた葉がゆらゆらと揺れたと思ったら葉から茎が生え、するすると上に伸び始めたのだ。
茎からは棘と新しい葉が生え、グラスの中いっぱいに根も伸びていく。
急激な変化に呆気にとられていると、植物の中心に大きな蕾が出来て大輪の深紅の薔薇が花開かせた。



「おいおいこれは…」

「はーは特質系ってことかぁ」

「特質系?あたしが…」

(よく分からない特質より、どうせなら具現化系が良かったなぁ)

とも思いつつも、グラスから生えた薔薇に視線を戻す。

「血のような色の薔薇…」


深紅の花弁は鮮血を彷彿させて…心臓がドクンと脈打った。
そっと壊れ物を扱うように練によって生まれた薔薇に触れる。




しゅぅぅぅ…




「あっ!」

指先が触れた瞬間、グラスの中の薔薇はドライフラワーのように水分を失い枯れていく。
触れる指に力入れると、乾燥して黒ずんだ薔薇は簡単に粉々に砕けてしまった。






ドクンッ





二度、心臓が大きく脈打った。
の赤い瞳が大きく開かれる。







目の前に映るものは……赤い、赤い色。



瓦礫と硝煙の中…

ある者は手に銃を持ち、ある者はナイフを握りしめて、またある者は首と胴体が切り離されていた。
倒れている者達が共通しているのは既に物言わぬ死体になっているということ。

足を地に着け立っている者がいなくなると、血に染まった“あたし”は満足してクツリとワラッた。







(これは…この光景は何?)








?」


目を見開き、宙を見つめたまま突然動かなくなったを心配したダウに肩を揺すられ、はっと我に返った。


「水見式をやって気分が悪くなったっすか?」


ペドロも心配そうにの顔を覗き込む。



「はは、なん、でもないです」

(今のは気のせい。あたしは大丈夫!!)

心の中で呪文のようにそう呟くと、は必死で笑顔を作った。









…To be continued.