窓の外にはネオン煌めく摩天楼。
室内に充満するのは、濃厚な汗と体液の臭い。
そして情事後特有の気怠い雰囲気だった。
月明かりに浮かぶ褐色の肌を隠すことなく、一糸纏わぬ豊満な身体をすり寄せてくる女に、煩わしいとばかりに醒めた目を向けると男はベッドから半身を起こした。
つい先程まで散々彼女のナカを好き勝手に蹂躙していたというのに、彼は行為が終わると同時にその熱すら冷めてしまったというのか。
否、律動の最中であっても男が行為に心底夢中になることは無い。
わかっていたが、こうもあからさまな態度をとられると相手をしている女としたら、たまには文句も言いたくなるというもの。
「あんたってさ本当に醒めた男ね。こんな時ってせめて抱き寄せるとか、キスくらいしてくれるんじゃないの?」
呆れ混じりに言ってみるが、予想どおり男は眉一つ動かさない。
「何を今更…俺とお前の関係など、こんなものだと分かり切っているだろう」
この男とは身体と仕事上のみの付き合い。
それ以上は女も別に望んではいないが…何度も肌を重ねているのだから少しくらい情でも湧いてもいいだろうに、と思う。
「本当に嫌な男」
「俺で性欲処理をしようとしているお前とでは、お互い様だと思うが?」
感情のこもらない声で言われて女は形の良い唇を蠱惑的に吊り上げる。
そりゃそうだ。たとえ愛を囁いてくれる彼氏がいたとしても…
「クロロとのセックスが一番イイんだもの」
身体の相性がいいのはお互い様。だからこそ二人はこの関係を続けているのだ。
クロロはジロリと女を一瞥するが、何も言わずにベットから降りるとサイドテーブルの上に置かれたリモコンでテレビの電源を入れた。
薄暗い室内に煌々と浮かぶテレビの画面には、報道番組が放送されていて画面いっぱい『事故か事件か!?』に焼けただれたビルの映像が映し出されていた。
「クロロ?」
カメラが引かれ、炎上し瓦礫の山と化したビル周辺の景色が映ると、一瞬クロロの表情が変化する。
ほんの一瞬だったが、彼の表情には僅かな動揺が見えた。
見間違い…?女は思わず目をこすってしまった。
この男が少しでも動揺を見せるなどと、珍しい事もあるものだ。
「ダーニャ」
ゆっくりと振り向いたクロロは、普段と変わらない冷静な表情をしていた。
だが、いつもより余裕が無い気がするのは気だろうか。
「調べてもらいたい事がある」
* * * *
電話をかけてきた相手は、真夜中だというのに不遜で無遠慮な態度でいくら気が長い方だと思う自分でも少しばから苛ついた。
文句の一つも言ってやりたかったが、冷静な彼に少しばかり焦っている感情が見え隠れしていたのに気付いて、珍しい事もあるものだと思った。
僅かばかり青年は眉を顰めるが、だからと言って仕事についてペラペラ話すわけはない。
「だからさ、何度も言うけど契約については教えられないんだけど」
【…わかった。では質問をかえよう。もし依頼主に何かあった場合、例えば死亡した場合はその契約は破棄されるのか?】
通話相手はようやく情報を引き出すのを諦めたようだったが、次はルールについて聞いてくる。
殺しの仕事はあくまで仕事だ。別に好き好んでやっているわけではない。
メリットや金にならない殺しなど労力の無駄使いだ。
「うん。そこまで依頼主に肩入れする事無いし。俺は快楽殺人者じゃ無いし殺しは仕事だからね」
【なるほど。あと一つ忠告しておくが…あいつはそう簡単には殺されはしないぞ】
「ふーん。じゃあなるべく時間をかけるけど、君も間に合うといいね」
面倒だけど仕方ないな、ぼやきながら青年は携帯電話をテーブルの上に置く。
「クロロがここまで肩入れをするなんて珍しいな。…でも確かに彼女は目立つ色だよね」
彼に言ってしまった以上、とりあえず時間をかけてやらないと面倒な相手を敵に回しかねない。
携帯電話の横に無造作に置かれていた今回のターゲットの写真に目を落とした。
…To be continued.