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いやはや、どこをどう間違ったらそういう事に行き着くのだろうか。
やっぱり殺し屋の彼は常人とは違うらしい。


「えぇー!!何ですかそれ!?そんな事はありえないですよ!!」


とんでもない発言には首が取れてしまうのではないのか、というくらいの勢いで首を横に振った。
そんな彼女にクロロは眉を寄せ、イルミは首を傾げる。



「ふーん。そうなの?クロロが他人を気にするって珍しいから、てっきり彼女かと思っていたんだけど」


ドSの彼の彼女なんて…ああ想像する事でさえ恐ろしい。
何かの間違いでそうなってしまったら、なんだかんだ理由をつけて彼にいじめ倒される。
彼の発言は勘違いというか、もはや嫌がらせだ。
心の底から勘弁して欲しいと思った。



「あっ!!そうだ!」

初めての彼氏=クロロ という恐ろしい想像をして軽い胸焼けを起こしていただったが、急に叫び声を上げるとイルミに駆け寄った。






「なに?」

「少しだけじっとしていてください」

先程が刀で殴って腫れてしまったイルミの頬にそっと手を添える。

何事かとイルミが口を開こうとしたが止めた。頬に添えられた彼女の掌から温かいオーラが流れ込んできたのだ。
ほんのりオレンジ色をした温かいオーラによって、頬の腫れも痛みも、殴られた衝撃で切れた口内の傷も癒えていく。


「せっかくのキレイな顔なのに、傷をつけてごめんなさい」

「…君ってさ頭悪いでしょ。俺は君の事を殺そうとしたのにさ」

しゅん、とうなだれたをイルミはまるで珍獣でも見ている気分で見詰める。
殺そうとした相手を、しかも自分を傷つけた相手を癒すなんて馬鹿としか言いようがない。



「それに何で刀を抜かなかったの?それは飾りで持っているんじゃないでしょ?」

「何でって…だって刃物で切ったら痛いかなぁって思ったから…」

刀で切ったら痛いのは当たり前。やらなきゃやられる。
そんな事はわかっているが、刀を抜いてその刃で誰かを傷つけるという事は出来なかったのだ。

踏ん切れないのは育っていく中で教え込まれた道徳心のせい。こればかりは闇の住人であるイルミには理解出来ないだろうが。


「やっぱり君って馬鹿だよね。でも…」

ぽん とイルミの大きな手がの頭に乗せられる。

「嫌いじゃないよ」


嫌いじゃないなら何なのだろう…?そんな事を言われたら、女の子だったら変に期待をしてしまうもの。
美形な男の人に至近距離で言われて、頭を撫でられて、クロロに抓られてじんじんと痛む熱とはちがう熱での頬が赤く染まっていく。
少女漫画だったらここで恋が芽生えるのだろうが、邪魔が入った。
クロロが二人の間に身を割り込ませたのだ。



「おい、俺にも言うことがあるんじゃないのか?」

「えっと…?助けに来てくれてありがとうございました?」

「他には?」

クロロはなおも続きの言葉を促す。


「…来てくれて嬉しかった…それと、ちょっとだけ、かっこよかったよ」


恥ずかしさから少し俯き加減で上目遣いにそう言うと、クロロはくしゃりと表情を崩す。
それは、彼にしては珍しく計算ではない笑み。



(あれ?なんだろうコレ…ドキドキする)

胸の鼓動とともに二度顔に熱が集まっていくのを感じ、真っ赤な顔を隠すために頬に手を当てる。




急に大人しくなったの顔を覗き込もうとするクロロに、何でもないと言うために顔を上げるが……


ある一点を見詰めて、の表情が固まった。


顔を上げた際に目に入ったのは、クロロの首筋。
彼の服で隠れる境目ぎりぎりのラインに見えたのは…2、3センチの赤い痕。

これは明らかに虫さされやぶつけた痕では無く、誰かに付けられたものだろう。

“唇の痕…キスマーク”

瞬時にそう理解した。






「なんだ?」

表情を強ばらせたに、クロロは訝しげに眉を顰める。
頭に伸ばされたクロロの手を思わずかわす。


「あっ…」

普段なら平気なはずなのに…
彼に触られるのが自分でも何故かわからないが今は嫌だと思った。






嬉しそうに笑ったり照れて赤くなって俯いて、ようやく顔を上げたと思ったら石のように固まるにデコピンでもしてやろうかと思ったのだが…
急に素っ気ない態度をとられるとは思わなかったクロロは、伸ばした手を引っ込める事も出来ずにいた。



?」

「…あ、う、ううん。何でも、何でもないですっ!」


名前を呼ばれてから今の態度が不自然だった事に気付き、無理矢理笑顔を作る。
珍しく戸惑ったクロロの顔を見ると、理由もわからずに胸がズキン、と痛んだ。







* * *

の念能力@⇒『The ultimate source of life.(生命の本源)』
触れた相手の細胞を再生させ、傷を癒やしたり臓器を再生させる事ができる。
その逆である、細胞を死滅させる事(ネクローシス)も可能。

ただし相手に触れていなければいけない。







…To be continued.