普段は走って10分もかからないはずの待ち合わせの中央広場までの道のりは、足と気分が重いためにやけに長く感じて着いた時には待ち合わせ時間を5分以上過ぎてしまった。
中央広場には妙な緊張感が漂い(感じたのは自分だけかもしれないが)、待ち合わせの時計台の前には二人の綺麗な容姿をした若い男。
珍しくラフなジャケットを羽織って額にバンダナを巻いたクロロと、横に並ぶのは黒髪をなびかせコーデュロイジャケットを羽織ったイルミだった。
遠巻きに若い女性が二人を見て、色めき立っているのが見える。
彼等の並んで佇む姿は、でさえ二人と一緒に並ぶのを躊躇してしまう程魅力的に感じた。
声をかけるのを躊躇していると、の気配に気が付いたクロロがつかつかと傍へとやって来た。
「遅い」
「ご、ごめんなさい」
謝るがクロロの手が動いて、デコピンでもされるのかと内心ビクついていたが不意にその手が止まる。
庇うように二人の間にイルミが入ったのだ。
「女の子は支度に時間がかかるものだよ」
その一言でクロロの手は引っ込められる。彼はそのまま無言のままそっぽ向いてしまった。
クロロの表情から感情は読み取れなかったが、何となく不機嫌なオーラを感じて一瞬背中に冷たい空気を感じたのだ。
話題のスイーツカフェ『ラプンツェル』は中央広場に面した場所に建ち、白い壁と赤い屋根のナチュラルな落ち着いた造りをしていた。
内装もカントリー風で可愛らしく、女の子ならきっと誰もが憧れるだろう。
有名ホテルのパティシエがオーナーが「自宅にお客様を招いて寛いでもらう」をコンセプトに造ったらしい。
「ルシルフル様ですね御予約承っております。お席はこちらになります」
予約優先の店らしく、事前に予約を入れてくれていたクロロに少し驚いてしまった。
彼は意外と気配りをしてくれるイイ人なのかもしれない。
「クロロさんありがと」
得意気な顔をされるとムカつくので、お礼の言葉は軽くおじぎをするくらいにしたが。
感じの良いウェイトレスさんに通されたのは日当たりの良いガーデンテラス席。
テーブルを囲んで、とクロロとイルミは自然と三角形に座った。
席に座ってからメニューを見ている間、男二人からの視線を一身に浴びている気がして正直落ち着かずには店内に視線を巡らす。
そして気が付いた。
(げっもしかして周りから見られてる?)
二人からの視線だけだと思っていたが、一番奥の窓際に座っている三人は他の席の客、主に女性客からチラチラと見られていたのだ。
モデルかと思うくらい、美形な男二人が女性客ばかりのスイーツカフェに居るのだ、他に男性客が居ないわけでは無いが、カップルがほとんどで。男二人に女一人の組み合わせは少しばかり興味を持たれるかも。
しかも自身は露ほども思っていないが、黒髪ウィッグを付けていても彼女も黙っていれば美人の範疇に余裕で入る。
絶で気配を調節するのを忘れていたため、十分に目立っていた。
興味の視線の中に軽く嫉妬に近いものを感じて、気分は蛇に睨まれた蛙(何か違う?)
「…見られているよね」
声を顰めるだが、イルミとクロロは今更気付いたのかとばかり平然としている。
「店内に入ってからずっとね」
「特に害は無い。気にしない事だな」
…やっぱり色んな意味で二人は強者だと思う。
居心地の悪さに背中を丸めていただったが、目の前に注文をしたショートケーキと紅茶が運ばれてきた瞬間、居心地の悪さなんかすっぱりと消えた。
「おいひぃー」
生クリームの甘さはスポンジ生地と食べた時を考慮してか甘過ぎず、スポンジもキメが細かくふんわりしっとり感たまらない。
「新しいケーキ屋さんに来たら、まずショートケーキを頼む。ショートケーキが美味しいお店は他のケーキも美味しい」
という持論で頼んだショートケーキは合格点。
花マル君をあげたいくらいの美味しさで、満面の笑みのの周りには花が咲いていた。
「俺のも食べなよ」
イルミから彼が注文したザッハトルテが差し出される。
チョコレートの濃厚な香りがとっても美味しそうで、食べてみたいけどイルミに悪い。
「えぇっいいの〜!?でも、悪いよ。一口もらえれば満足です」
「全部食べなよ。が食べている姿を見ているのって面白いし」
「むぅー面白いって何だよぉ」
フォーク片手に頬を膨らますと、ずいっと今度はクロロから洋梨のムースを差し出された。
「俺のも食べろ」
「ほぇ?」
意外な行動に目を瞬かせてしまう。
「ケーキがいっぱいで嬉しいけど、あんまり食べたら太っちゃうよ」
ぶっちゃけケーキ3個くらい余裕なんだけど、以前ヤスの前でもりもり食べたら怒られた。
「お前はもう少し肉を付けた方がいい。ガリガリの女は抱き心地が悪いからな」
はっ?とケーキをつつく手が止まる。クロロの言葉にイルミも頷く。
「確かににはもう少し脂肪を付けた方がいいね。服を着ている段階で欲情しても、裸にしたら実は骨と皮ばかり…っていうのは萎えるかな」
「ああ、どんな絶世の美女でもヘタをしたら上げ底胸の場合だってあり得るからな。その点は糖分が腹周りではなく胸に付いているのか、上げ底をしていない様だ」
「へぇーそれは脱がして確認するのが楽しみだね」
「………」
男達の会話を聞いては顔を赤くしながら俯いてしまった。
…コイツ等は本人を目の前にして何て話をしているのか。変な事に意気投合しないでほしい。
クロロの言う通り、胸は加工無しの自前のもの。
元の体型は胸は無いわけじゃないけどお椀型で小ぶりで、今の体型になってちょっと嬉しかった…っていうか、何で自前の胸って知っているんだ?
これが昼間からの、賑やかな街の中心部での会話だとは…突っ込みたいが、突っ込みどころが多くてどこを突っ込めばいいのやら。
余計なことを言ったらもっとすごい事を言われてしまいそう。
俯くを他所にとんでもない会話を続けていた男二人だったが、突然弾かれたようにの後ろを見やる。
何事かと口を開こうとした時―…
「はぁーい!クロロォ」
突然後ろから色っぽい女の声と出現した気配。
驚いて振り返ると、其所には褐色の肌と金髪をくるくる巻いた、迫力あるボディラインをしたボン・キュッ・ボンッのグラマラスな美人が微笑を浮かべていた。
胸元が大きく開いたデザインの服からこぼれ落ちそうなメロン大の胸の谷間に目がいってしまう。
…To be continued.