※イルミ視点
自分の周りにいた女達は従順な女か、仕事で知り合う女は自己主張が強く、特に母親は気が強くヒステリックな女だったから手を繋いだだけでガチガチに身を固くする彼女は、反応一つとっても面白くて可愛いらしいと感じた。
聞けば、父親と兄貴以外の男とこんな風に過ごしたことが無いと言う。
華やかな美少女(見ようによっては美女)の外見をして、モデルの仕事をしている割には男との経験も無しだなんてよっぽど男に興味が無かったのか、大事に育てられていたのか。
買い物をするわけでもなく服屋に入り、身体に服をあてて「どう?」と聞く彼女を見ているとその店に置いてある服全てを買ってやりたくなる。
雑貨屋に寄って、売り物のサングラスを掛けあい、俺の髪にふざけて髪飾りをつけてみたり…
たわいもない一時だったが、それは暗殺の仕事に明け暮れる俺にとっては新鮮な時間となった。
「イルミ、今日一日ありがとう」
洒落たイタ飯屋で夕食を済ませ、さすがに部屋まで入ることはしないが彼女をマンションの入り口まで送る。
このまま別れるのが惜しくて、理由をつけて彼女の部屋へ入ってしまおうかとも考えたが、彼女を傷つけてしまいそうで止めた。
真っ直ぐな瞳でお礼を言われてしまうと卑怯な事を考えていた自分が恥ずかしくなった。
「また…」
― また、一緒に… ―
どうしたことか、続く言葉が出ては来ない。俺ってこんなに奥手だったのか、と少し驚いたくらいだ。
「いや、何でもないよ」
じゃあまた、そう言って背を向けて離れようとする俺の服を細い手が掴む。
「あのね、すっごく楽しかったの。またこうやってデートしてね」
にっこり笑う彼女は、ファッション誌で見る綺麗な作り笑顔ではなく満面の笑み。
それは本日何度となく見た笑顔の中でも最高のもので、闇の世界に身を置く自分にとっては眩しいと感じた。
困ったな。
近づいたのは興味本位からだったのに。
それに仕事に支障が出そうだから、弱みを作りたくないから、何かに執着はしたくないのに…
このままでは君にはまってしまいそうだ。
…To be continued.