痛みを覚悟して目を瞑るが、刃が届く前に血しぶきが上がった。
「ぐあぁっ!」
「えっ!?どうして…?」
「ばかっ…早く、行け…」
刃が届く直前、を庇って背中を切り裂かれた警備員は血を吐きながらも逃げるように促す。
「逃がす思うか?」
「逃げ、ぐはっ!」
警備員の頸動脈を切り裂き止めをさすと、男は走ろうとしていたに切りかかってきた。
人を殺すことを厭わない男と“殺すべからず”という倫理観を捨てきれないとの実力差は明らかで…かろうじて斬撃を防ぐものの、防ぎきれずに細かい切り傷が幾つも出来る。
コイツは何てドSな男なんだ、わざと斬撃を外して少しずつ切り刻んでいたぶるつもりなのか。
「ドSはもう十分だよ!」男を悦ばすだけだと思うが、そう泣きながら叫びたくなった。
刀を何度かぶつけ合う攻防の後、間合いを取ろうと床を蹴り後ろへ跳ぶ。
その時、新たな気配がホールに現れた。
警備の援軍か警察が来てくれたとは考えられない。賊の仲間が現れたのかと、軽く舌打ちをするが…
「フェイタン、遊びすぎだ」
心臓が大きく脈打ち、の目が大きく見開かれる。
絶体絶命のピンチで幻聴でも聞こえてきたのかと、我が耳を疑った。
悲鳴と銃声と刃のぶつかり合う音の間で、聞こえたのは落ち着いたよく通る低い男の声。
この声を、知っている。
いや、自分はこの声の主をよく知っていた。
(そんな、嘘だ。そんなはずはない。だって、出張の仕事に行くって言っていたもの)
声の主は、この世界に来て兄貴みたいに思っていた人。
ドSだけどたまに優しくて、もしかしたら一番心を許していて親しく感じていた人かもしれない。
そうだ…そういえば今更ながら、彼がどんな仕事をしているのか知らなかった。
興味が無かったわけではないが、いつも聞くタイミングを逃していたのだ。
否、意図的に上手にはぐらかされていて、質問する機会を与えられ無かったのかもしれない。
「なんで…?」
ようやく喉の奥から発した声はひどく掠れていて…髑髏マスクの男は意識が散漫になっているに怪訝そうに眉を寄せた。
少しだけ首を動かして声の主を確認すると、やはりそこには以前一度だけ見たことがある黒コートを着て髪をオールバックにセットした“恐いクロロ”が立っていた。
(違う、この人は誰?)
こんなに冷たい色をした瞳のクロロは見たことが無い。
クロロもに気が付いたのか、闇色の瞳が動揺で僅かに揺れた。
「団長?って、この子…」
クロロの様子からシャルナークが不思議そうに二人を交互に見た後、ポカンと口を開く。
「うそ…」
頬に冷たさを感じたから、もしかしたら自分は泣いていたのかもしれない。
しかし、指を触れて確かめる暇は無かった。
目前にマスクの男が間合いをつめて現れたのだ。
「わかたよ団長。遊びは終わりね」
視界の隅に見えたクロロはマスクの男に何かを言おうと口を開いた…ように見えた。
だが、それは間に合わなかった。
ドッ……ザシュッ!
二度と襲ってきた衝撃で息が止まる。
次いで、熱しられた焼き鏝を押し当てられたように皮膚が引きつる痛みが走った。
男が心臓を貫くために繰り出した突きをとっさに避けたため、刃が心臓を貫くのは免れたが刃はの左胸を背中まで貫通していたのだ。
「は、あぁ…」
刃は左肺を突き破っていた。
動こうとするだけで突き刺すような痛みが全身に走る。
呼吸をしようとしても、ひゅーひゅーと空気が肺から漏れていくのを他人事みたいに感じた。
よろめきながら左胸を押さえるが意味を成さない。
傷口から大量の血液が吹き出して白いワンピースを赤く染めていく。
「あ…」
「クロロさん?」そう続く言葉は、肺から込み上げてきた嘔吐感によって消された。
げほり、と血液を吐くと全身の激しい痛みと傷口からの出血のためか、目眩と共に体中から力が抜けていく。
念を発動させて傷口を塞ぎたきとも、意識を集中することも出来ないままは足元から崩れ落ちていった。
赤く染まっていく視界と意識の中、力を振り絞って瞼を開く。
僅かに残った視力で見えたのは、茫然とこちらを見詰めたまま立ち尽くすクロロの姿だった…
…To be continued.