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果てが見えない暗闇の空間で存在するのは黒髪の少女だけ。


両膝を立てて座る少女、は目の前に手のひらをかざして手を握ったり開いたりを繰り返し行っていた。

(…生きてるし、感覚はちゃんとある)

カーナギーホールで黒ずくめの男に刺されて意識を失ってから、気が付いたらこの空間に座り込んでいたのだ。
当初は意味がわからずに混乱して恥ずかしくなるくらい泣いていたが、時間の経過と共に少しずつ冷静になれた。


(それに、あたし元の体に戻ってる…)

頬にかかる肩までの髪は癖の無い真っ直ぐな黒髪。目の前にかざした手は細く長い指と綺麗に整えられた爪では無く、両手の人差し指がぷっくりして指先には短く切ったばかりの爪には見覚えがある。
鏡が無いため顔を見ることは出来ないが、確かにこの体は元の世界で17年間育ってきた自分の体だった。

慣れ親しんだ体のはずなのに、妙に違和感があるとは…
思ってもいなかった。
自分と代わって“表”へ出て行った彼女と瓜二つの体に、こんなにも馴染んでいたなんて。









「ただいま」


気配も無く、唐突にの傍らに銀髪をなびかせながらワンピースを赤く染めた“”が現れる。

彼女が戻って来て、その姿を見たは苦しそうに眉を寄せた。
だがそれ以上にの表情が歪んだのは、事の顛末を伝えられた時だった。


「そっか…」

一瞬だけ泣き出しそうな程顔を歪めたは、しかし涙は見せずに抱えた両膝に顔を埋めながら唇を噛み締める。

理由は何にせよ彼女の泣き顔は見たくはない。
声をかけようと口を開いた時、ようやく顔を上げたがポツリと呟いた。


「これからリアさん大丈夫かなぁ」

思わず“”は眼を丸くして「はぁ?」と素っ頓狂な声を漏らす。

「クロロさんきっとリアさんの所に行くよね」

「まぁ、団長さんは今頃あの女の所でしょうね」

むしろ連中にはあの女の元へ行ってほしい。
冷たく言えばは唇をへの字に結んで、二度抱えた両膝の間に顔を埋めた。


「襲われる事を事前に知っていたのに、自分の見栄だけの為にショーを中止させずに数百人の人間を見捨てたような女の事を貴女は心配するの?」

「だって、誰かが傷つくのも死んじゃうのも悲しいもん。それに…クロロさんに人殺しさせたく、ない…」

「…貴女は本当に白くて真っ直ぐなのね」

騙されて殺されかけたのにリアの事を心配し、自分の信頼を裏切った男を気にする彼女には呆れてしまう。
だが反面、馬鹿だと思うくらいに真っ直ぐで純粋な彼女に安堵したのも事実。

身を屈めて黒髪を撫でると、は気持ち良さそうに目を細めた。





「あのね、ずっとずっとね不思議だったの」

髪を撫でていた“”の手が止まる。


「貴女は誰?」

ゆっくりと顔を上げたの瞳からは戸惑いはすでに消え、代わりに強い意志が宿っていた。


「あたし、どうしてこの世界に来たの?それに…何で貴女と同じ姿になったの?」

「…知りたい?」

すぅ…と両目が細められ、一気に“”の雰囲気が鋭く冷たいものへと代わる。

視線を向けられるだけで動悸が速くなり、殺気すら感じさせる刃物のような彼女の雰囲気に気圧されてしまいそうになった。

「あっ…」

発せられる圧迫感に、息をするのでさえままならない。
もう余計な事を何も考えないで、頭から布団をかぶって眠って現実逃避したくなった。


(でも―…)

ギュッと手のひらを握り締める。
この機会を逃せない。逃げるわけにはいかない。
この世界に来てから今まで、散々な目にあってようやく彼女と向き合う事が出来たのだから。









…To be continued.