02 // 素直になれなんて馬鹿げてる

Title2 所属しているタークスは常に人員不足だ。
任務途中で殉職した同僚の任務を引き継ぎ社外へ出て彼の任務を完了させた後、直ぐに本社へ戻り山のような始末書を何とか処理して、はようやく遅い昼食にありつけた。
休み無しの連続勤務にここ最近は食事の時しか休めない。
体中が疲労からギシギシと悲鳴をあげているし相当肩も詰まっている。
二人も殉職するような危険な任務を、ソルジャーも付けないで女一人に任せるなどと一応上司のツォンは腹の立つ男だと思う。
まぁ、実際は各地で起きている反神羅グループによるテロ対策のため人員不足なのだろうけど、苛つきは収まらない。
これも仕事だから仕方がない、と自分に無理やり言い聞かせてランチプレートの最後の一口を口に含んだ時、は思わず吐き出しそうになった。


「あいつ…」

ピークの混雑時を大分過ぎたとはいえ、神羅ビル内の社員食堂にはかなりの社員が居るというのに、満面の笑みで手を振りながら駆け寄ってくる青年の姿を認めてしまったから。


「おーい!」


周りからの視線をものともせずにに手を振るのは、針金みたいな黒髪の青年。
彼は、以前偶然に任務で知り合ってから何かにつけて声をかけてくるのだが、こっちの都合や迷惑を考えずにやって来る自分より年下の青年は何というか弟というか、子犬のよう。青年は無遠慮にの居るテーブルの向かい側の椅子にどかり、と腰を下ろした。


「…ちょっとザックス、恥ずかしいからあんまり叫ばないでよ」

「なぁなぁ聞いてくれよ」

軽く睨みながら言うの言葉にザックスは全く聞こうともせず話し始める。
…そうだコイツはマイペースだった、は諦め混じりに溜め息を吐いた。


「で、どうしたの?」

「実はさ―…」



ザックスが頬を緩ませながら話したのは、先日スラム街の教会で会った少女の話だった。


「でさーそのコ可愛いんだけどすごいしっかりしていてさ」 「へー、それで君はその子に恋をしちゃったわけか」

淡々と直球で言ってやれば、ザックスの顔は真っ赤に染まる。
…本当に彼は分かりやすい。

「ななな、なんだよ」

「いいねぇザックス君は純情でさ」

「へっ?純情って?」
「本当に、羨ましいくらい」


ずっと昔、自分もザックスみたくこんな風に淡い恋心を抱いた気がする。なんだか懐かしい。
いつからだろう?彼みたいに感情を表す事も無く、淡々と日々をこなすなようになってしまったのは。


「ザックスはいつまでも…そのままの君でいてね」

魔胱を浴びた者だとわかる青緑色の瞳はソルジャーの証。彼がこの先平穏無事に過ごせない事を物語っている。それに、ソルジャーには科学部から人体実験をされているとの黒い噂もある。
血塗られた修羅の道を進もうとも、それでもこの先に何があろうとも彼は変わらないでいて欲しい。


?」

不思議そうに目を瞬かせた時、タイミング良くテーブルの上に置かれた携帯電話が振動して、に着信を伝えた。
仕事用の携帯電話への着信に、電話をかけてきた相手はサブディスプレイの表示を見なくてもわかる。



「悪い、仕事だわ。続きはまた今度ね」

着信に応える事無く、は携帯電話を乱暴にパンツの後ろポケットにしまい立ち上がると、ザックスも一緒に椅子から立つ。


「食器片付けておくから早く行けよ。仕事頑張ってな」

ニカッと笑顔を見せると、ザックスは食器を手に返却口へ歩き出した。









「本当、眩しいよね」


喜怒哀楽をはっきり出して自分の感情に素直な彼の存在は、鬱陶しくも羨ましかった。
仕事と割り切って感情を切り捨てた自分にも、彼みたいに誰かに恋をして相手の仕草に一喜一憂していた日もあったかな。

曖昧な記憶を思い出しながら、タークスの部署へ近付くにつれて仕事用の顔に戻っていく自分を自覚して、は苦笑いを浮かべた。








素直になれなんて馬鹿げてる

(偽らなければやってけないって)








* * *

羨望と恋は似て非なるもの。憎からず思っていた少年の他者への恋は、寂しくもあり応援してあげたくなる複雑な感情。