鳥男に連れてこられ、朦朧とした意識のまま洞窟のような通路を無理矢理歩かされて着いた先は、戦時中の収容所みたいな過酷な場所だった。
「新入りだ!仲良くやれよ」
片手に槍を持ち武装した男に背中を強く押されては地面に倒れ込んだ。
灯りもほとんど無く、薄暗く湿った澱んだ空気。
黴っぽくと何かが腐ったような何とも形容し難い臭い。
緩慢な動きで顔を上げれば、土が剥き出しのままの地面に薄汚い麻布が敷かれて、その上に横になっている人や座り込んでいる人達が目に入った。
ボサボサの髪でボロ切れを身に纏った彼等は皆疲れ果てているらしく俯いていて、口の中を切ってしまい咳き込むに手を貸そうともしない。
此処には絶望しかないのか。
きっと自分も…一週間もすれば彼等と同じように薄汚れていき絶望に澱んだ色を瞳に宿すのだろう。
「うっく…」
最初は夢をみているだけだと思っていた。
ただの夢で、いつかは覚めるんじゃないかって。
しかし、いつまで経っても夢は覚める事は無く、突き飛ばされて膝を打っちつけた痛みは本物で…
部屋着のまま連れてこられたから裸足に地面の冷たさが伝わって、その現実感からポロポロと涙が溢れた。
「君、大丈夫?」
「ったく、女の子に酷い事するなぁ」
突然かけられた声に顔を上げれば、薄暗いため顔はよく見えないが声と体格や雰囲気から自分と同い年くらいの少年だろうか。
二人の少年がを心配そうに覗き込んでいた。
差し伸べられた少年の手に戸惑いながら掴まって身を起こしてもらう。
「ありがとう…」
「俺はリュカ、こっちはヘンリーっていうんだ。えっと、キミは?」
「わた、しは…」
寝間着の袖で涙を拭きながら言うと少年達は「よろしくな」と笑顔を見せた。
* * * *
遠くで母親の声がする。
、早く起きなさい!遅刻するわよ!
…待ってお母さん、何だかすごく体がだるいの。もう少しだけ寝かせて。
「!」
「!朝だよ起きなよ」
「ん、お母さん…あと5分だけ寝かせて」
眩しそうに片手で顔を隠すの耳に少年の笑い声が届く。
「お母さん?何寝ぼけてんだよ」
無理矢理体を起こされて寝ぼけ眼で周囲を見渡すと、一瞬自分が何処にいるのか理解出来なかった。
土壁の大部屋、埃まみれの汚れた麻布の上に寝ている自分。
「そんな夢じゃない…」
「ほら早く作業に行かなきゃ鞭男達に鞭で叩かれるよ」
「そうそう、新人だからってあいつ等は奴隷を多目に見ちゃくれないからな」
鞭、作業、奴隷?
彼等は何を言っているのか。
ゆっくりと体を起こしてリュカとヘンリーの方を向く。
昨日は薄暗かったためよく見えなかった二人の姿をしっかり見て、出かかった涙も引っ込みくらい吃驚した。
「あなた達は…」
何故ならリュカとヘンリーはがよく知った人物だったからだった。
* * * *
意図せずに奴隷として連れてこられからどれくらいの日にちが経ったのだろうか。
土まみれの慣れない生活で一週間もかからずに手はあかぎれでボロボロになった。
こんな環境では風呂はもちろん無い。
水で体を洗うことしか出来ないための肩までの黒髪は傷んでボサボサになった。
食事はパサパサのパンと水のみ。
栄養バランスなんて考えてもいない食事ではひもじくて堪らなかったが、元々小食だったは直ぐに慣れた。
一応思春期の15歳。
年相応にオシャレには気を使っていたが、此処では身だしなみなど気にする余裕はない。
生き抜くことが最優先だ。
この世界は、自分が育ってきた世界とは違う。
認めたくなんか無かった。
奴隷として高い山の山頂で神殿を造る作業を強いられて確信した。
認めたく無かったが今となっては認めるしかない。
この世界をは知っていたから。数年前に、テレビの画面を通して…
「私、ゲームの、ドラクエXの世界に入っちゃったんだ」
呟くと、は両手で自分の顔を覆った。
…To be continued.