06

その日はまだ目覚めたばかりだということで、もう1日だけ修道院で休ませて貰う事にして、翌日に出発する事になった。
ヘンリーはこの国のラインハットの王子様、リュカにはまだ生きている母親がおり、亡くなった父親の意志を継ぎ母親を探し出すという目的がある。
特に行く当ても無かったは、彼等に同行を申し出て二人はそれを快く了解した。





「どうぞご無事で…!私はここで皆さんのことをお祈りしています。リュカさんたちの無事と…神殿の皆さんの無事を祈っています…」

「ああ…マリアも、元気でな」

清楚な修道服に身を包んだマリアの見送りを受け、御世話になった海辺の修道院から出発した。
此方の姿が見えなくなるまで手を振るマリアにヘンリーは何度も振り返る。


「いいの?ヘンリー、マリアを置いて行って」

恋愛事には疎いだが、彼がマリアに好意を抱いていることは傍目から見てもわかる。
ヘンリーは少し寂しそうに、だがはっきりと答えた。

「…今はリュカの故郷に戻るのが先決だろ。故郷の村に戻ってホッとさせてやろうぜ。…マリアには、いつでも会えるさ」

「とりあえず北の街、オラクルベリーに向おう」

先を歩くリュカにヘンリーとは頷くと小走りで先を急いだ。











* * * *









世界中から人が集まり出来た街、オラクルベリー。

此処は煌びやかなカジノやすごろく場に大きな酒場もあり、夜な夜な人々が集まり賑わう街でもある。
ヘンリーの記憶では十年前は普通の田舎町だったらしいが、此処は昼間でも訪れる旅人が多い上に、夜になると盛り場特有の怪しい雰囲気が溢れる、なんとも若者には刺激が強すぎる街だった。

三人も初めてこの街に足を踏み入れた時、奴隷時代とのあまりのギャップに戸惑い、キョロキョロと辺りを見回して田舎者丸出し状態になっていた。
ヘンリーは元王子様、も一応現代日本に15年生きていたのだが、それでもこの1年は文明とは縁のない埃まみれの奴隷という底辺生活を過ごしてきた身である。
あまりの変化についていけないのも仕方がない、とはそう納得してみた。



「なぁ、せっかくオラクルベリーに来たんだし、ちょっとだけカジノに行って来てもいいか?」

「はぁ?確かにこれだけキンキラキンに派手な建物じゃあ興味津々になる気持ちはわからなくも無いけど、私達、旅を始めたばかりだからお金は節約しなきゃだしそれに遊んでる余裕なんて無いんだよ?」

じろりと睨んでやるが、なかなかヘンリーは引き下がらない。

「確かにその通りだけどさ、人生勉強っていうか、少し覗くだけだからいいだろ?」

「…しょうがないな」

溜め息混じりでリュカがカジノで遊びたがるヘンリーに10Gを渡し、「あまり熱くなりすぎるな」と念を押してからと街を散策することにした。
いつも思うのだけれど…リュカは親友のヘンリーに甘い。
ヘンリーだけでなく彼は自分にも甘いのだけど、いつも負担を負うことになっても他人を気遣うその優しいさに、無理をしているんじゃないかと心配になってしまう。


「俺の顔に何か付いてる?」

「いやそうじゃないけど。本当、リュカって優しいなぁって思っただけ」

「そうかな?」

首を傾げる彼がちょっとだけ可愛い、と思ったことは内緒。







…To be continued.