07

街を散策しながら、やはり此処はドラクエの世界なんだ、と改めては実感していた。
通貨や展開、街の雰囲気がゲームそのものなのだ。ただし、今自分が見ているのはテレビ越しの世界ではなく紛れもない現実なのだが。


、どうした?」

「いや、今此処にいるのがね、何か信じられなくてね…」

信じられないのは奴隷から解放されたことなのかこの世界にいることなのか…自分でもよくわからない。



街を散策していて偶然迷い込んだ路地裏で、居を構えていたモンスターが大好きという変わった“モンスターじいさん”からリュカのモンスター使いの才能についてと、旅には馬車があった方が良いと教えられた二人は、夜しか営業していない“オラクル屋”で馬車を購入した。


「馬車で旅をするなんてすごいよねー旅人になった、って気がする」

馬車に乗ることや馬に触れ合うこともにとって人生初。

「そうだね。これで旅が楽になるだろうな…っと、そろそろヘンリーも満足しただろうからカジノに行ってみよう。自信満々だったから勝てたかな?」

リュカの問いには無理じゃないの?と苦笑いを浮かべた。
だって本人には悪いが、だって、ヘンリーがカジノで勝ってホクホクしている姿が全く想像出来ないもの。


「ヘンリーのことだから、今頃きっとスッカラカンになって落ち込んでいると思えるよ?カジノを覗いて、居なかったら宿屋前で待っているんじゃないかな?」

現代日本だったら携帯電話で連絡を取り合うところだが、この世界ではそれも無理な話。
面倒だが足で移動して捜すしかない。少しだけこの世界は不便だなと感じた。






「おーい!お前ら遅いって!」

二人の姿を見付けると、ヘンリーはカジノのネオンを背に宿屋の前で両手を振って駆け寄ってきた。

「ほら、やっぱりね」

予想通りの行動で、リュカとは顔を見合わせて笑ってしまった。












* * * *










翌日、武器屋で各々の装備を整えた後、旅に必要な薬草や食料など最低限な物を購入して三人は出発した。

オラクルベリーの側に架かっている大きな橋を越え、しばらく北上するとラインハットへの関所と山々が見える。

青い空と何処までも続く草原と遠くに見える深い森と山々。
此処は現代日本じゃない。
自分はこんな風景は知らない。改めてそう感じた。
物語の流れではラインハットに行く前に立ち寄っていたはず。行き先はサンタローズ、確かリュカの故郷の村だったか。



「はーしんど」

奴隷生活によって普通の女の子よりは自分は体力がある方だと思うが、ピクニックではない初めての徒歩による旅は、かなりの体力を消耗するうえに足の裏に出来た豆が痛む。
初めてのモンスターとの戦いもあり、オラクルベリーを出発して半日あまりでの疲労困憊になっていた。


「魔法を使いすぎたのかなぁ…」

体力の消耗というか、モンスターとの戦いで自分のレベルがどれくらいなのかわからないのに、ドラゴンクエストの魔法をぶっ放してみたいという欲望に負けて高レベルの魔法を使いすぎてダウンした、と言った方が正しいが。
(これがMPが0になった状態か…)などと思いつつ、道中で仲間になったスライムのスラリンを額の上に載せて氷嚢代わりになってもらい、小一時間程馬車の荷台で横にならせてもらった。


「この丘を越えたらお前の故郷の村なんだろ」

「10年ぶりだから楽しみだな。村のみんなは元気かな〜?」


サンタローズに近付くにつれて楽しそうなリュカとヘンリーと異なり、の表情は曇っていく。

(確かサンタローズの村ってラインハットの兵士達に…)

この事をリュカに伝えた方がいいのかオラクルベリーからの移動中ずっと考えていた。
しかし、結局は言うことが出来なかった。







…To be continued.