サンタローズの村から西に1日歩いた場所にある町アルカパ。
サンタローズの神父様からアルカパの町に伝説の勇者に詳しい人がいるらしい情報を得て、一行はこの町にやって来た。
一番大きな建物の宿を中心に明るい色彩の建物が立ち並び、花と緑にあふれたアルカパの町は、リュカの幼なじみであるビアンカが住んでいた場所。
奴隷時代に何度か幼い頃の冒険の話を聞いた。
その時の彼は本当に楽しそうだったし、奴隷から解放されてからようやく戻って来た故郷の村の惨状にショックも大きかっただろうから、ビアンカと再会させてあげたかったな、そうは思っていた。
「えっ?お父さんに用事なの?お父さ〜んお客さんよー」
酒場の奥に通され、酒場の主の男性によれば、大昔、竜の神様に封じられていた闇の帝王エスなんとかが復活しようとした時、伝説武具を手にした天空の血を引いく勇者を表れて世界を闇の力から救った。しかし、その後の勇者と仲間達の行方はわからない、らしい。
僅かながら伝説の勇者について情報を得た後、ビアンカに会いに宿屋に向かった。
しかし、宿屋にはビアンカや彼女の父親と母親は居らず、一家は数年前に宿屋を現在の主人に譲りどこか別の土地へ引っ越してしまったという。
落胆の色を見せるリュカにせめて、幼い頃の思い出の宿屋に泊まらせてやろうと珍しくヘンリーが気を利かせて、今夜はアルカパの宿屋に泊まることになった。
宿ご自慢の食事は、地元の食材をふんだんに使った料理ばかりで美味しく、案内された部屋は掃除が行き届いておりとても居心地が良い。
今まではお金の節約のためリュカとヘンリーの二人と同室だったが、今日は宿の主人の好意で久しぶりには一人部屋をあてがわれた。
今日は沢山歩いて疲れているのに、頭が冴えてしまい何だか寝付けない。
「…散歩してこようかなぁ」
寝付けないなら少し散歩してみようか。
町の中なら危なくは無いし、リュカとビアンカが冒険した夜の町を見てみたい。
深夜の町は昼間の暖かい雰囲気とは一変して静まり返っている。
雲一つ無い夜空には星がきらめいて三日月がくっきりと見えた。
こじんまりとした広場のベンチに腰をかける。
そういえば幼いリュカとビアンカが苛められていたキラーパンサーと出会ったのが此処だったか。
(伝説の勇者かぁ…)
昼間、男性から勇者の話を聞いてからずっと考えていた。
(確か、エスターク…?進化の秘法って、どこかで聞いたような…)
数年前にプレイしたためドラクエの細かい設定は忘れてしまっている。
しかし、闇の帝王の名はどこかで聞いたことがあるような気がした。
ふとサンタローズの洞窟で天空の剣を手にした時に見た、白昼夢で会った少年の姿が脳裏に蘇ってくる。
(天空の武具を装備した勇者って、もしかしたら彼が伝説の勇者なのかな?)
珍しい緑色の髪に青い瞳をした整った顔の少年だった。
一度会えば忘れられない色彩。
彼とは初めて会ったはずなのに、どうして知っていると感じたのだろう。
また彼に会えるだろうか?
不思議と少年の笑顔が忘れられない。
聞きたいことはいっぱいだけど、とりあえず今は会いたい。
一瞬しか会ったことがない相手に再会したいなんて一目惚れで恋したのかとも思ったが、何だか違う気がする。
…これは、遠い日本にいる両親を想う気持ちに近いような気がする。
不意にベンチに座っていたの視界に影がかかった。
「眠れないの?」
下を向い思考していたから気が付けなかった。
頭の上から声をかけられても彼が相手ならは驚かない。
一人でいろいろ考えているとき、よく気付いてくれて声をかけてくれたから。
「うん…寝付けないから少し散歩していたの。リュカは?」
「俺もそんな感じかな」
言いながらリュカは隣に腰掛ける。
「まだ夜は寒いから冷えて風邪をひくよ」
ふわりと肩にかけられたのは彼が羽織っていた外套。
「いいよ。リュカが風邪ひいちゃう」
「俺は今此処に来たばかりだから平気だよ」
にっこり笑って言われしまえばは何も言えなくなる。この笑顔に弱いのだ。
ゆっくりとリュカは辺りを見渡す。
「懐かしいな…小さい頃、こうやってさ夜中に起きて町を抜け出して、ビアンカと一緒にお化け退治に出掛けたんだ」
「…ねぇ、リュカは…ビアンカに会いたかった?」
「そりゃあ、一緒に冒険をした幼なじみだからね。それに…ビアンカは親父のことを知ってるから」
少し寂しそうなリュカの横顔に、胸がチクリと痛む。
「大丈夫。旅の途中でビアンカに会えるよ」
大丈夫だよ。
貴方はビアンカに会えるし、彼女と結婚して可愛い子ども達を授かるから。
「ああ、に大丈夫って言われるとそんな気がする。…風が出ててきたな…そろそろ戻ろうか」
「うん」
頷けば、当たり前のようにリュカから差し出される手のひら。
少し照れながらは指を絡める。
繋がった手のひらはとても温かくて冷えた体が温まっていくのを感じた。
…To be continued.