2.あれ? わたし悪くないよね?C

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重い足取りで喫茶スペースが設置されているエントランスまでやって来たは、3人の派手な女の子に囲まれた彼を見て溜め息とともに身体が脱力するのを感じた。
お洒落な大学生の中にいても彼が目立っているのはわかる。
背も高く顔立ちも整っていて、本当にモデルみたいだ。
それ以上に、人目を引きつける強力な雰囲気を彼は持っているのだが、これはいささか目立ちすぎではないか。



「なにあれ?」

隣の友人もこの状況に目を丸くする。
それはそうだろう、も彼に声をかけるのを躊躇っていた。
しかし、鬼という彼だからとっくに自分の気配に気が付いているだろう。
先程送られた鋭い視線のことを思えば、このまま無視したら間違いなく後で痛い目を見ることになりそう。
それに…何となくだが今のハーレム状態に彼が苛立っている気がする。

「あのー…風間さん?」

発した声は喉の奥から出るまで、たっぷり数秒を要した。


「あの…えーと、なんで、貴方が学校にいるんですか?」

勇気を出して声をかければ、派手な化粧と恰好の女学生達の視線がに集まる。
耳元で「知り合い?」と問う友人に小さく頷く。

「何、知り合いなのー?」

服を引っ張る金髪の女の子を煩わしい、とばかりに振り払うと、風間は腰かけていた椅子から立ち上がった。
そのままの前まで歩み寄る。

「ようやく来たか。お前が出掛けた後やって来た戸崎に、お前が行っている「大学に行ってみたいか」と問われ、頷いたらここまで連れてこられた」

「連れてこられたって…と、戸崎さんのばかぁ」

幼いころから何かと面倒をみてくれている戸崎のことは信頼を置ける人物だとわかっているが、それと同時に時々呆けたことをしてくれるのだ。
風間を大学まで連れて来たのは「学校見物」というくらいの軽い気持ちでだろう。
ただ、出来ることならば、彼を一人にしないで一緒にいてほしかった。

「ねぇー」

先程は無視された形となった金髪の女学生が風間の腕に身体を擦り寄せる。
風間に鋭い視線を送られても彼女はなかなか放そうとしない。

「ねぇ、まさかそのコ彼女?」

「はっ!?」

随分と積極的な女の子だなーと他人事のように見ていただったが、意図しない言葉に固まってしまった。
暫時固まった後、ようやく言葉の意味を理解して否定しようと口を開いた時、派手な女学生が笑い声を上げた。


「彼女なわけないってぇ〜こんな地味子ちゃん」

「それよりさぁアタシ達と遊びに行こうよ」

「そうそうアタシ、いいクラブ知ってるのよぉ」

あっさり否定されると何だか悲しくなる。
少しだけ落ち込んでいると、それまで黙っていた友人の眉がつり上がっていく。

「ちょっと!あんた達、このコのどこが地味だって言うのよ!」

「ちょっ、いいって本当の事なんだし…」

友人と女学生が一気にヒートアップするのを感じては焦る。
マズイ。
このままでは大人数の前で修羅場になってしまう。


「…くだらんな」

それまで静観していた風間は吐き捨てるようにそう言うと、腕に絡み付く金髪の女学生を簡単に引き剥がした。


「俺は、化粧で加工をしている貴様等より、こいつの方がよほど美しいと思うがな」

「はっ?」

一触即発という雰囲気だった彼女達の動きが止まる。
彼女たちを一瞥すると風間はの方へ指を伸ばす。
そのまま眼鏡を奪い取った。

「わっ!?ちょっ、ちょっと何するの!」

奪われた眼鏡を取り返そうと背伸びをした瞬間、風間の側にいるためか、この場の空気が淀んでいるためか、裸眼で視たの視界が歪む。
軽い頭痛と目眩がして、背伸びをしたまま体勢を崩して風間の腕に掴まってしまった。

「壊れたならば、これはもう必要ないだろ?」

「そーゆう問題じゃないってっ!」

眼鏡を外されて露わになった素顔。
目立つことが嫌いなのに必要以上に視線を集めてしまった羞恥と混乱から、は顔を真っ赤にして風間に詰め寄る。
普段は感情をあまり出さないの珍しい姿に友人は面白いものを見ている気分で、女学生三人は卑下してみていたの素顔と、二人のやりとりに目をまん丸にて唖然と見つめていた。

女学生三人の唖然とした姿を確認して、風間は口の端を吊り上げる。



「行くぞ」

「ぇええ?」

短く告げると、風間はの手首を掴んで歩き出した。





男の、しかも彼は鬼。普通の女であるに抵抗など出来るはずない。
仕方がなく、無言のまま引きずられて校舎の外まで歩く。
何なのだろう今日のこの状況は。
体育の授業で怪我をするし、いつの間にか風間さんはお姉さんと一緒で何故か自分が巻き込まれるわで散々な上に、置いてきた友人を含めたあの場に居た人達に絶対に風間との関係を誤解されてると思う。


「おい…何故もっと早くに来なかった?お前が、早く来れば五月蝿い女達に喚かれずに済んだ」

「あ?ご、ごめんなさい」

同居を始めて大分慣れたけど、睨まれるとさすがに迫力があるうえに眼鏡無しの状態だから、背筋に冷たいものが走る。
逃げたくなるけど、腕を掴まれているせいで逃げられない。
それに、

「ってか…」

流れで謝っちゃたけど、何か変じゃない?






あれ? わたし悪くないよね?
(ってか、この状況になったのは、風間さんがしっかりしていないから、こんなことになったんじゃないの?)




「しかし、何でいきなり眼鏡を取ったんですか?ビックリするじゃないですか」
「…お前はもう少し自覚を持ったらどうだ?」
「え?何のことですか?それより風間さんこそ自分が目立つんだって、もう少し自覚してくださいよ」
「………」







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