「が作ってくれたカレーがあるけど食べますか?」
「ああ」
問われて答えれば、着物にエプロンをひっかけた月子がキッチンでカレーを温め始める。
滅多に帰って来ない月子が家に居て、キッチンに立つなど非常に珍しい光景だが、風間にしてみたら息苦しい時間に感じていた。
いつもならこの家に居るはずのは、大学から帰ってくるとすぐに、友人と飲み会に行ってくると言って出掛けて行った。
この時空にやってきてから、初めて一人で過ごす夜。
さて何をして過ごそうかと思案していた時、と入れ違いに月子が帰ってきたのだ。
月子と2人っきりになるなら、一人でテレビでも観ていた方が気楽だったか。
ソファーに腰掛けながら大きく伸びをする。
未だかつてこれほどまでに早く帰って来てほしいと思ったことがあったか。
…初対面から、月子は人間にしては異質な存在だと感じていた。
女として見れば凛とした美しさをもった女だと思うが、隙の無い雰囲気が彼女がただ者ではないことを物語っていた。
姪のと同じ、彼女の色素の薄い琥珀色の瞳。
しかし、全く異なる輝きを持つその瞳見詰められると、自分の内面までも見透かされている気がして風間は月子が苦手だった。
こうやって食事の準備をしてくれているのでさえ、何か裏があるような気がしてならない。
「ねぇ風間さん、を迎えに行ってくれないかしら」
幸いにも月子はカレーを食べないようで、一人で夕飯を済ませた後、使用した食器を片付けていた風間は怪訝そうに眉を寄せる。
「何で俺が…」
「もう夜も遅い時間ですし、あの子も女の子だから何かあっては困るのよ。貴方は男性の、しかも腕っ節が強いから何かあっても大丈夫でしょう?車は手配するから迎えに行ってくださいな」
穏やかだが、有無を言わせない月子の強い口調に、風間は深い溜め息を吐く。
案の定、彼女の行動には裏があったか。
「…わかった」
彼女には脅しは効果は無い。
自分には拒否権など与えられて無いと悟ると、ゆっくりとソファーから立ちあがった。