4.それ全く冗談になってないから!C

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普段着慣れない服を着たせいか鏡に映る自分の姿に違和感を感じて、は鏡の前で一人百面相をしていた。
戸崎から渡された服はニットのカットソーにマーメイドラインのスカート。
甘過ぎないデザインで可愛いが何時もと違うピッタリとした服のため体の線が出てしまい恥ずかしい。
可愛い服装なのにナチュラルメイクだなんて似合わないかな、と手持ちのアイシャドウをコスメボックスから出していると、控え目に部屋の扉をノックをする音が響いた。
返事をすると部屋に戸崎が入ってくる。


さん着替えは済みましたか?」

「あの、戸崎さんそれは?」

指差した“それ”とは戸崎が手にしているプロが使用していそうな黒いコスメボックス。

「せっかくの機会ですからヘアメイクも整えて差し上げようと思いまして」

「えっ?」

つい、上擦った声が出てしまう。彼が仕事や料理など何でもこなせることは知っていたがヘアメイクまで出来るとは知らなかった。
たった今、自分でもどうしようかと思っていたことだけどよく見知っている男性に顔をいじられることに少しばかり抵抗を感じる。
何て返事をしたものか悩んでいるを鏡の前に座らせると、戸崎は化粧品を広げた。

「戸崎さん…有り難いですけど、私は月子ママみたいに綺麗じゃないし、お化粧しても似合わないですよ」

「貴女は十分魅力的ですよ?もっとご自分に自信を持ってください。ただ、隣を歩くのが風間さんというのが少し引っかかりますけどね」

有無を言わせないという圧力がこもった笑みを向けられると、もう頷くしかなかった。












* * * *












部屋着であるスエット姿ではなく、コーデュロイジャケットを羽織って黒色の細身パンツ姿の風間千景は性格がどうであれ外見は本当に格好良い。
眼鏡を外しているの眼には本来の鬼の姿、銀髪の金眼、額に角が生えた姿が視えていたが。
待たせてしまったことを謝らなければと思いつつも、リビングのソファーに座る風間に声をかけるのも忘れては見入ってしまった。

「遅いっ…」

気配に気付いた風間が振り向き、そして大きく目を見開く。

「う〜馬子にも衣装だってわかっていますから…そんなに見ないでください」

「…いや、似合っていないとは言っていない」

痛いほどの風間からの視線に耐えられずには横を向く。
キャビネットの硝子に映る自分は確かに違和感があった。
戸崎によって整えられた髪は緩く巻いて、しっかりとマスカラを塗った睫毛はバッチリ上を向いていし、似合わないのは百も承知。
溜め息混じりに外していた眼鏡をかけようとして、風間に手首を掴まれた。

「それは外していろ」

「でも、眼鏡が無いと…」

魑魅魍魎が視えてしまう。と、眉尻を下げて視線で訴えるも風間は素知らぬ顔。
片手で顎を掴まれて上を向かされる。
視界いっぱいに彼の端正な顔が入り込み、一気に頬に熱が集中する。きっと茹でタコみたく真っ赤に違いない。

「か、風間さん?」

顔を動かそうにも数本の指だというのに強い力で固定されて動かせないし、人を殺せそうなくらいの強い眼力で視線を逸らすことも出来ない。


「俺の眼を見ろ…」

言葉とともに風間の金色の瞳が細められて、一瞬、目の前に火花が散って視界が白く染まる。

一瞬の間を置いて、咄嗟に瞑ってしまった瞼を開く。

「あ、れ?」

クリアになった視界に飛び込んできたのは、金髪と赤い瞳の、人間としての風間の姿。

「視えない…?」

先程まで視えていたのは、銀髪金眼で角の生えた鬼の姿だったはずなのに、彼の纏う気配も普通の人間と変わらない。

「一時的だが貴様に暗示をかけた。これならば平気だろう?」

呆然と彼の姿と眼鏡とを見比べてしまう。
眼鏡無しの外出は子供の時以来かもしれない。子供の頃から今までずっと、視えないように眼鏡というフィルターをかけていたから。


「風間さんありがとう…」

「ああ」

作り笑顔では無い自然な笑みを浮かべるから目を逸らすように横を向いた風間の頬は…微かに赤らんでいるような気がした。








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