02
目を覚ますと、見知らぬ天井が見えては寝惚けているのかと、目を擦ってみた。
「…ここ…どこ…?」
頭が冴えてくるにつれて、だんだんと昨日の事を思い出して頭痛がしてきた。
ああ…やっぱり夢じゃなかったんだ…
この日から、いつもの学校用スーツでは無く用意してもらった淡いピンク色(ピンクなんて似合わないのに)の着物を着て、腰には腰巻きを巻いて掃除・炊事・洗濯(ようするに雑用)の手伝いをすることのなった。
「おはよう〜」
朝からヒマワリの花のような大輪の笑顔を振り撒きながら、美少女がやってきた。
彼女は加奈さんの妹、奈々ちゃん(15)姉妹揃って白拍子をしているらしい。
白拍子とは確か男装して舞う女性で、場合によっては貴族や武士の夜のお相手もする。そのため、舞以外にも美貌と教養(あらゆる)を兼ね備えていないといけない職業だったはず。
彼女はまだ15歳だというのに…貴族相手に…
きっと私より…いや、大変だな…いろんな意味で。
「どうしたの?髪を結ってほしいんだけど」
「う、うんわかったよ」
朝からモザイク想像をしていたなんてとても言えない…
この時代のほとんどの女性の髪形は、背に垂らすか一つで結うか。なんとなしに彼女達の髪を結ってあげたら好評で、姉妹のヘアメイク係りに任命されてしまった。
ちなみにポニーテールにして逆毛立てただけなんだけど…此処では斬新な髪型らしい…
家事は一人暮らしをしていたし、幼い頃から月子ママに教わっていたこともあり、そつなくこなすことができたの。
「さんはいいお嫁さんになれるね」
お母さんに褒めらると純粋に嬉しい。こう見えて仕事が休みのときは料理もしていたのだ。それが生かされるとは…違う形で生かされてほしかった。
ただ欲を言うと、料理に使う主な調味料が塩・味噌くらいしか無いこと(醤油もどきはまだ庶民まで広まっていない)とお茶が一般的じゃないことが不満かな?
平安時代はお茶は薬として飲まれている。
あとは、しょうがないとはいえ洗濯機が無いことがツライ。
(…いや、これは私がどこまでできるのか試されているのね!!)
無理やりそう思うことにした。
ここは平安時代っぽいから、家電製品が無いのはどうしようもないから。改めて現代社会は恵まれているのだなと思う。
「ただなぁ…どうしよう」
生活に少しずつ慣れるにつれて、は不安を感じていた。
…お手伝いの合間に情報収集をしたのだが、どうやらこの時代は平安末期。
平清盛が没し平家の全盛期時期が終わり、源氏筆頭に反対勢力が打倒平家に動き始めている時期。確か、遥か3の望美ちゃんが来るのが宇治川の合戦だから…その約2年くらい前?
源氏との戦が始まり、それが激しくなる時期…
もしも自分が歴史…この時代では未来か、を知っていると権力者に知られたら?
こめかみを押さえながら洗濯物を干していると、庭に加奈がやってきた。心なしか彼女の足取りは軽い。
「〜それ終わったら市に行かない?髪飾りを選んでほしいの。」
「え?だってこの後は舞の練習に付き合ってくれるんじゃないの?」
「それは後!この前、買い物に付き合ってくれる約束したじゃない」
加奈とは年齢が近いこともあって、すぐに仲良くなった。少し前に、調子に乗り自分の趣味でもある歌(カラオケが好きなので)を披露してみたら、
「…綺麗で不思議な言葉ね。異国の歌かしら?歌に合わせて舞ってもいいかしら?」
と、歌に合わせて美しい舞を見せてくれた。
初めてしっかりと舞を見たは感激してしまい、身の程知らずかも知れないが彼女に舞を教えて欲しいと頼んだのだ。だって現代では簡単には経験できない事だから。
「…しょうがないなぁ」
市に行くと彼女たちはの物まで購入しようとするから、申しわけなくてあまり市には行きたくないのだが…
加奈が拗ねると面倒なので買い物家事の手伝いが済んだ後お母さんに断って加奈と市に行くことにした。
* * * *
「〜どれがいいかな?」
「う〜ん」
目の前にある棚にはきらびやかな髪飾り・首飾り・耳飾り・クシ等が並んでいて若い女性客が数人が品物を手にとっていた。
はそのうちの何品かを手にとり、加奈の髪に当ててみる。
「加奈は綺麗な黒髪に碧眼だから…瞳と同じ色か反対色のこの髪飾りがいいんじゃないかな?」
「は〜流石ね。こういうのはせんすがいいって言うんだっけ?」
加奈は以前冗談で教えた「センス」という言葉を繰り返す。
「じゃあねー今度は私がの髪飾りを選ぶよ」
「私はいいよ別に着飾る必要も無いし、あるからいらないよ」
ただでさえ居候の身なのに彼女にお金を使わせるわけにはいかない。
慌てて手をヒラヒラさせて、身に付けている装飾品見せながら言う。
「それは髪飾りじゃないでしょっ」
「それ」とは、眼鏡とが右手親指と薬指に着けている指輪。指輪は艶を消したシルバー素材で、幾何学模様が掘られている。眼鏡はテリー伊●プロデュースのこだわりの品。
「髪飾りより大事な物です。育ての親がくれた指輪だし、眼鏡も無くてはならない物、お守り…かな?髪飾りは興味が無いわけじゃ無いけど、今はいいの」
元々外見を飾るのは好きじゃないし、この時代の人は眼鏡をかけているだけで大抵の相手は一歩引いてくれる。
「もぅ…もったいないが着飾ったらそこいらの殿方はイチコロだろうに〜」
「え、」
彼女は…イチコロなんていつの間に覚えたのかな?教えた覚えはないのに…思わずは首を傾げてしまった。
買い物が済み、家に戻ってきた二人を出迎えたのは頬を膨らませた奈々だった。
「何で誘ってくれなかったの〜?!」
「だってあんたを連れて行ったら余計な物まで買うじゃない!」
冷たく答える加奈に、奈々はさらに頬を膨らます。
ふとはこんな表情ができるのは若くて可愛い子の特権だな、と思ってしまう。
「私も髪飾り選んでほしかったのに、ずるいずるい〜」
「あははわかったから、今度一緒に行こうね」
「はーいいわよ、奈々を連れて行くと煩いし余計なものまで買うわよ。それにまだまだお子様だから見る目は無いしね」
「加奈の方が煩いじゃなの!!」
がなだめて納得しかけていたというのに、加奈の余計な一言で奈々はさらに怒り出してしまった。このまま放っておいたら飛びかからんばかりに。
「うるさいよ!あんた達騒ぐなら外でやりなっ!」
…きゃあきゃあ騒いでいたらお母さんに怒られてしまった。
「「「・・・ごめんなさい・・・」」」
こんな光景はまるで本当の姉妹のよう。口喧嘩をしても仲良しな三人…そんな楽しい一日でした。