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04

…―此処は、遙かなる時空の中で3 の世界…―

その事実を知り、最初は混乱のあまりご飯が喉を通らなかったが、今ではすっかり…開き直る事にしました。

トリップしたことはどうしようも無いし、滅多に経験できることでは無いもの。
歴史とゲームの流れをある程度知っていれば何とか命の危険は避けることができるだろうから。(と、思い込む事にした)
今は寿永二年、望美ちゃんが京に喚ばれるまであと約半年…
なるべく目立たないように何とか乗り気って、彼女達と合流出来れば元の世界に戻る方法が見つかるはずだ。


(…でも…)

ふと頭を霞めるのは満月の夜に出逢った銀髪の彼。

平 知盛…

見ているだけなら凄く好みなんだけどなぁ。
低音の声といい顔美形だし、いい体しているし、エロイし、猟奇的だし…………やっぱり関わりたくない。
それに、彼が興味を抱くのは『白龍の神子』であり、自分ではない。
頭を振って気持ちを切り換えることにした。


「おしっ!とりあえず半年間頑張るぞっ!」

目指す先は望美ちゃんと八葉達との合流!!




梅雨が明け、煩いくらいの蝉の声と盆地特有の蒸し暑さ、加えて肌をこがすような陽射しが降り注ぐ。
季節はもう初夏―
その日、と加奈は濡れ縁でダラダラ(特に)していた。


「ぁ暑いーぃ」

、夏だからしょうがないよ」

「そうだけど…加奈は暑くないの?こんなに着込んでさ…」

「暑いわよ?…まぁ慣れ、かしら」

「…絶対慣れないって」

汗で着物が肌に張り付くのはどうしても慣れない。
脱ぎたい…前に一回着物を脱いで、キャミソール一枚になっていらお母さんに

「はしたない!」

と、滅茶苦茶怒られてしまいそれ以来怖くてできない。


バタバタバタバタ!!


「加奈姉さん!!大変よ〜!!」

足音を起てて凄い勢いで奈々とお母さんがやって来た。
奈々は着物の裾を乱しながら、普段行儀作法に厳しいお母さんまで走って来るなんて…二人の様子に加奈も驚きながらも妹に尋ねる。

「奈々は兎も角、お母さんまでどうしたの?」

「…えっと、ね、さっさっき使い人が、来てね…」

ハァハァハァ…


「…とりあえず少し落ち着きなよ?」

軽い酸欠で上手く口が回らない奈々に代わってお母さんが説明してくれた。


「先ほど、さる宴の席での仕事の依頼が来てね…」

お母さんは大きな仕事の依頼なのに何だか歯切れが悪い。

「宴の仕事ですか…その様子では、何かあるのですか…?」

「…依頼をしてきたのが六波羅平参議の使いの方なのよ」

「六波羅…平参議…って平家!?」

「…そう、ですか…」


それを聞き、加奈も複雑な顔になる。
無理も無い。清盛公が存命していた全盛期ならば、両手を叩いて喜んだ事だろう。
平家一門に気に入られれば下手な貴族より贅沢な暮らしができる。
だが、度重なる戦により行く末に暗雲が立ち込めつつある平家と関わるのは確かに躊躇するはずだ。
黙り込んでしまった姉に奈々が尋ねる。



「…加奈姉さんどうする?断れないよね…」

お母さんと加奈は顔を見合わせたが、大きく息を吐く。

「…お受けするしか無いでしょう。むしろ、請われるなんて光栄じゃないの。それで、その宴は何時ですか?」

「明日ですって。加奈姉さん急いで支度しないと」

平家や源氏に関わりたく無いと思っていた矢先…こんなのアリですか!?準備について話し合う母娘を見ていたは一気に変な汗が出てきた。


「…あの…私は雑用だし、お留守番でいいよね?」

絶対に関わりたくない、という雰囲気を出しながら聞いてみるが…淡い期待はお母さんの一言で消えた。


「それが…も連れて来るようにとも言われたの…」

「えぇ――!!何で!?」

驚くに奈々もさぁと首を横に振る。


「理由はわからないけど“黒髪で琥珀色の瞳をした女子も連れて来るように”と言われたの」

「この家で“黒髪で琥珀色の瞳の女子”はしか居ないわね…」

でも何でかしら?と首を傾げる加奈の隣で、は唇を噛む。

(恐らく、いや絶対、銀髪の彼の差し金だ。まさか、いちいち私のこと探したの?きっと今頃嫌味な笑みを浮かべていることだろう…ムカツク)


「…選択肢は、“行く”しか無いのね…」


ポツリ呟き、はガックリ…と肩を落とした。









* * * *





「うわぁ〜…圧巻…」



此処は六波羅―…平氏一門の邸が一帯に建ち並んでいる。その数五千とも言われている、らしい。
当たり前だけれど、現代の六波羅とは違う。
※現代京都の六波羅には住宅が建ち並んでいます。

三人は、建ち並ぶ屋敷の中でも一際大きい屋敷に呼ばれた。
寝殿造の建物、整えられた庭に大きな池が造られている屋敷はまさに大貴族の邸。
此処が六波羅殿(清盛)の邸なのだろう…






「この部屋を使うように…」

女房に案内された部屋は、恐らく屋敷の中では簡素な造りだろうが衣架(衣紋掛け)や鏡台等の調度が置かれていた。
庶民には絶対手が届かないだろうそれらの品を見てつい、(現代に持って帰ったらいくらで売れるかしら?)等と思ってしまう。


「はぁ凄いね…流石六波羅殿の御屋敷…此処に居ることが信じられない」

頬を紅潮させ興奮気味の奈々とは対照的に、加奈は不安気に眉をひそめた。

「平氏の重鎮たる方々が集まっているようだから、粗そうをしないように気を付け無ければね…」

「それじゃ、失礼の無いようにいつも以上に丁寧にお化粧するからね」

唐櫛笥(化粧箱)から白粉や紅を出して、二人の化粧を手伝う。
アイラインに紅を取り入れ、可憐というより妖艶なメイクで文句無しの美人姉妹の出来上がり。

暫くすると、部屋に案内をしてくれた女房が加奈と奈々を呼びに来た。


「では、御勤めを果たしてくるね」

「二人とも頑張ってね!」



少し緊張顔の二人を笑顔で見送り、は一人残された部屋で円座に腰を下ろして一息ついた。
部屋から少し離れた場所で宴の準備をしているのだろうか。バタバタと人が走り回る慌ただしい音がする。

…今、歴史に名高い平家の屋敷に居る。なんだか夢みたいだと心底そう思う。
平家の宴、凄く興味はあるけれど…我慢するしかない。
此処には恐らく主だった人達が集まっているだろう…

(将臣君をはじめ遙か3のキャラを生で見てみたい。と、特に敦盛君!彼を一目でいいから見たい!)

願望を堪えるように、はぎゅっと拳を握りしめた。
下手に関わりを持ってしまったら予定が狂う。それにストーリーを変えてしまうことはできない。
自分はこの世界では「神子」ではなく「異分子」なのだから…
そう思うと、大きな溜め息がでた。


外はすっかり暮れ、遠くの方から宴が始まったのだろう。賑やかな音が聞こえる。
加奈と奈々は…大丈夫だろうか。

(心配だな…でも、それより…)


「…トイレに行きたい…」

シリアスな事を考えていても…生理現象は止められません。


(厠は何処かしら?聞いておけばよかった。勝手に出歩いて怒られ無いかな?急ぎだから許してもらえるよね。)

この歳で漏らすわけにはいかない……
は部屋を出て厠を探す事にした。



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