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「少し付き合えよ」

七条の家に帰ろうとするを将臣が呼び止める。
どうやら酒盛りをするらしい。
面倒だなぁ…と思ったが将臣の「敦盛も来る」の一言では二つ返事でOKした。



「…久しぶりだな、

「敦盛君久しぶり。…って敦盛君もお酒を呑むの!?」


未成年なのに、と敦盛に詰め寄ると将臣が間に入り、律化の頭を軽くこづく。


「近いって。敦盛が困ってるじゃねーか。法律も何も、こっちでは未成年とか無いんだよ」

「将臣君が飲酒しているのはわかるけど、敦盛君はそんなイメージがないんだもん」

「あ、いや、私は…」

言い合う将臣とに、どうしたらいいのかと困ってしまっている敦盛の後ろからくすくすと笑い声がして、は振り返る。


「失礼。私は敦盛の兄、平経正と申ます」

経正はゲームの中と同じく、穏やかな優しい笑みを浮かべていて、彼を見ている方も穏やかな気持ちにさせる印象を受けた。


「経正様はじめまして。と申します」

「貴女のことは弟から聞いておりますよ」

にっこり微笑む経正に、つられて笑みが浮かぶ。天性の癒し系とは彼のことかもしれない。
経正と会話をしていると、知盛とよく似た銀髪の公達がこちらに近づいてくるのが見えて、は慌てて頭を垂れた。

「お久しぶりです殿。兄、知盛がご迷惑をかけているようで申し訳ありません」

「あ、いえ、私の方こそお世話になっています」

「ふふ、貴女はお優しい方のようですね」

「重衡…いいに手を放せ」

の手を握りながら微笑む重衡を知盛が睨むが、弟には効果は無いようでどこ吹く風といったところか。
彼は、いやよく似た兄弟は天性のタラシかもしれない、そう本能が危険信号を放っていた。












* * * *



その日は、連日の稽古疲れていたのか…それとも素敵な殿方達に囲まれて気分が高揚していたのか、普段より早く酔いがまわってきては軽く頭痛を感じていた。


「あ、お酌しま、きゃあ!」

酌をしようと立ち上がった際に、足がもつれてしまいの身体が大きく傾ぐ。


(ヤバイ、顔から突っ込むー)

思わず目を瞑るが、予想していた衝撃は無かった。


カシャン…


代わりにフワリとした浮遊感と甘い香りがして、腰に手を回されて誰かに支えられているのに気が付く。


「お怪我はありませんか?」

「すいません、重衡様…」

申し訳なさそうに顔を上げて微笑むの顔を見て、重衡は息をのんだ。


「…?重衡様?」

「…成程…兄上に気に入られる訳ですね」

「はい?」

重衡の言葉の意味が解らずは首を傾げる。
将臣もの方を見てへぇーと唸った。


「…眼鏡を取ったらあららって、漫画の話だけだと思ったぜ…」

「えっ?」

顔に手を当て、ようやく転んだ拍子に眼鏡が外れたのに気が付く。

「あぁ、め、眼鏡。重衡さんっもう大丈夫ですから、離していただけませんか?」

慌てるをよそに重衡は微笑みを深くしながら、さらに彼女の腰を支える腕に力を込める。


「何時もは兄上や将臣殿と御一緒なのですから、今夜くらいは私の相手をしていただけませんか?」

眼鏡というフィルターが無いと、端正な顔立ちをした重衡の色気に負けそうで微笑みにクラクラする…


「えぇ?相手って…」

「いけませんか?」

そう問う重衡は…例えるなら子犬の様な目で見つめてくる。こんな切ない顔をされたら断れ無い…
どうしようかと首を巡らすと、は視界の隅に経正の姿を捉えてしまった。


「っ!」

身に纏うこの空気は…やはり彼も、怨霊…

重衡は黙り込んだの髪を優しく撫でる。


…?了解していただけたでしょうか?」

「駄目だ」

それまで成り行きを静観していた知盛だったが、無言のまま立ち上がるとの肩を掴み、強引に引き寄せた。

「わっ、ちょっと知盛、殿!」

急に引っ張られたため、よろけてしまいの体は知盛の腕の中にスッポリと収まる。


「…兄上、あまり女性を乱暴に扱うのは如何なものかと思いますが?」

「クッ重衡…コイツは俺のお気に入りでな。手を出さないでもらおうか」

(…ナニソレ? 私の意見は無視ですか?)

二人の勝手な発言に、かぁっと頭に血が上る。睨みつけてやっても知盛はを放そうとしない。


「彼女はそれを了解してはいないのでしょう?」

双子のようによく似た、しかし異なる二人。
お互い口元に笑みを浮かべていたが、兄弟の間に冷たい空気が流れる…






「おい、お前等いい加減にしろよ」

「お二人とも殿が困っていらっしゃいますよ」

さすがに見かねた将臣と経正が間に入り、何とか張りつめた空気が緩んでいく。
解放される瞬間、知盛を思いっきり上目使いで睨んでやった。


「クッ、そんな顔は俺の前だけにして貰おうか…」

知盛はそっとの耳元で囁くと、いつの間にか拾っていたらしい眼鏡をの掌に置いた。


「なん…」

低い低音の声を耳元で囁かれ、一気に心拍数が上がる。
予期していなかった反則技には自分の頬に熱が集中するのを感じた。



「将臣君…一体何なのこの兄弟…」

「はははっ、何時もの事だからもう慣れたけどな」

流石還内府、度量が違う。
尊敬の眼差しで将臣を見つめれば、将臣は深い溜め息をついた。



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