16
―翌日―
達は早々に朝食を済ませ、海岸沿いの街道を歩いていた。
昨晩は…宿屋の主人に長々とお説教され、正直眠い。
横を見れば、一緒に説教された加奈と奈々の二人も眠たそうにしていた。
海岸沿いということもあり、真夏でも潮風が気持ちいい。
肌が焼ける事が無ければ最高だと思う。
「すごい…」
これが熊野の海!
海岸線は、サスペンス劇場の撮影が出来そうなくらい入り組んだ崖になっている。
確か元の世界では、入り組んだ小島の何処かに水軍の隠し財宝が眠っているとか無いとか…聞いたことがあるな。
「この辺りで一休みしましょうか」
お母さんの一言で休憩することになった。
「凄い絶景だね〜」
「そうでしょ。気に入ってくれた?」
故郷に帰ってきたからか久しぶりに奈々も気分が良さそに笑う。
「少し歩こうか?」
奈々に誘われては岩場を歩く。
暫く無言のまま、前を歩いていた彼女が不意に立ち止まった。
「…は、すごいね」
「すごい…?」
「あれからずっと、普通にしていられるなんて…」
あれからとは、平家が都落ちした日から?
振り向いた奈々は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「私は、駄目だなぁ…何時も考えてしまうの」
「…すごくなんか無いよ。私は、ただ狡いだけ…それに奈々みたく、恋慕ってるわけじゃないからね」
自嘲気味な笑みを浮かべたに、奈々は戸惑いを隠せない。
「えっでも、知盛様と将臣様は…の事を大事に思ってくださっていたのでは…」
「毛色の違う女が珍しかっただけだと思う」
「そう、なの…?」
納得がいかなかったのか奈々は首を傾げる。
「奈々、大丈夫。清房君は無事だよ」
「…うん」
清房の名を出して、下を向く奈々に悪いと思いつつ話をすり替えてしまったのは、彼らの話をこれ以上続けていたくなかった。
続けていたら、きっと、泣き出してしまうから。
* * * *
勝浦の町は風に潮の香りが混じり、京とは違う港町特有の活気に溢れていた。
町の中心にある大通りから小路に入った民家が建ち並ぶ一角。
其処に建つ、古い屋敷が親娘が以前住んでいた家だという。
屋敷は古いながらも、掃除が行き届き小綺麗にされていた。
「長旅お疲れ様でした。ヒノエ様から話は伺っております」
初老の男性がにこやかに出迎えてくれる。
「まぁヒノエ様が…」
一足先に勝浦に戻って来たヒノエが、屋敷を管理していた男性に伝えてくれたという。
その後、バタバタと荷物の整理をして、気が付けばもう日が傾いていた―…
与えられた部屋で、ボンヤリと夕焼けに染まる外を眺める。
明日から熊野での生活が始まる。私はこの先無事、龍神の神子達と出会えるだろうか…?
「大丈夫…きっと、うまくやっていける」
今までだって何とかやってきたのだ。きっと出来るはず、一人そう呟いた。