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カツカツカツ…
…静かな教室に黒板に板書をする音が響く。
《 二月革命の影響で自由主義・国家主義運動がヨーロッパに波及⇒ウィーン体制の崩壊 》
数行書き、は板書の説明を始める。
「…フランス二月革命による社会改革の影響により、保守派のメッテルニヒの追放されウィーン体制がついに崩壊しました。っと…時間ね」
キンコーンカーンコーン
「次の授業では今回の続きから入ります。資料集を忘れずに持って来てください」
「起立ー」
ガタガタガタッ
「礼。ありがとうございました」
教科書を片手に教室を出る時、は近くにいた男子生徒に声をかける。
「悪いけど、世界地図を2年3組に運んでおいてくれないかな?」
「あ、はい」
ありがとう、と微笑み礼を言う。
頼まれた男子生徒はほんのり頬を染めていた。
ガラッ
は職員室へ戻ろうと教室のドアを開け足を踏み出そうと…
「っ!?」
目の前にの光景に目を見張った。
ドアの向こうに広がるのは学校の廊下では無くどこまでも続く真っ白な空間―…
「何…」
こみ上げてくる得体の知れない恐怖と不安感に、ずるずるとその場にへたりこんでしまった。
(いやだ、怖いよ…)
少しでも恐怖を和らげようと、ぎゅっと瞳を閉じた―…
チュンチュン…
目を開けると板張りの天井が見えて、は深く息を吐く。
今のは…夢だった…?
(やけにリアルな夢だったなぁ現代で授業していた…チョーク持って板書するなんて。…懐かしい)
仰向けにぼんやり天井を眺めていると、襖の向こう側から誰かの足音が近付いて来るのに気が付きは上体を起こした。
「さん?目が覚めましたか?」
襖越しに声をかけてきたのは落ち着いた雰囲気を持った女性、…黒龍の神子である朔。
「はい、ごめんなさい遅くまで寝てしまって」
寝坊した事を詫びると、彼女は構わないわと、やんわりと言う。
「じゃあ身支度がすんだら朝餉を食べにいらしてね」
再び遠ざかって行く足音。
そうだった…此所は京の梶原邸。六波羅で龍神の神子達と出会った後、梶原邸へお邪魔したのだ。
久しぶり現代人(といっても少し異なるが)の望美と讓と出会えた事に気を良くして、すっかり話込んでしまった。
「泊まって行くといいわ」
と言う朔の言葉に甘えて泊めてもらったのだ。
ぱんっ
「よしっ」
目を覚ますため自分の両頬を叩き気合いを入れた後、着替え&洗顔を済ませて朝餉を食べに向かった。
「いい匂い〜」
居間へと向かう途中、味噌汁と焼き魚の臭いに誘われて台所を覗きに行った。
「譲君おはよう」
台所に立つのは襷掛をしたメガネをかけた緑色の髪をした少年。味噌汁の湯気でメガネが少し曇っているのが何とも微笑ましい。
「さんおはようございます」
「いい臭いに誘われて、つい覗きに来ちゃった。これ譲君が作ったの?」
すごいね、と言うと譲は照れ笑いを浮かべる。
「味見してみます?」
「いいの?じゃあ遠慮無く…」
遙か3のゲーム中で何度も食べたいと思った譲の手料理。
感激しながら、きれいに巻かれただし巻き卵を一切れ箸で掴み口に運ぼうとしたが…
ぐいっ ぱくっ
後ろから伸びてきた何者かの手がの手を掴み、だし巻き卵を奪われてしまった。
「あっ…」
自分の背後、至近距離に感じる吐息にひきつる頬を抑えつつ、首をゆっくり動かすと後ろに立っていたのは…
「もぉ、ヒノエ君」
そう、満面の笑みを浮かべたヒノエ。
「ヒノエ…後ろから奪うなよ。失礼だぞ」
ヒノエに手を握られたままでいるとヒノエを見て、
眉をひそめながら譲は言うがヒノエは全く悪びれた様子は無かった。
ジャニーズ並に整った顔をした少年が向ける屈託無い笑顔。こんな顔をされたら毒気を削がれてしまう。
卑怯な笑顔だなぁ…と思い、声のトーンを落として挨拶をしてやった。
「…おはよう」
「怒らせた?…どうしたら機嫌を直してくれる?」
「じゃあ、配膳を手伝ってくれる?」
お茶碗を指差しながら首を傾げて聞くと、
「フフ、姫君の仰せのままに」
ヒノエは握ったままのの手の甲へ ちゅっ と、音をたてながら口付けを落とした。
「……」
それを目撃してしまい何故か赤くなる純情少年の譲。
「…もぉ…」
はずれたメガネのフレームを直しながら息を吐く。
昨日六波羅で龍神の神子一向と合流してから、やけにヒノエが絡んでくる気がするのは気のせいだと思いたい…