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― 昨日のこと、六波羅 ―
「です。よろしくね」
にっこり挨拶をするを見て、望美は驚きの声を小さく漏らし凝視した。
「さん…?眼鏡をかけてるってことは…」
「ああ、私はこの世界の人間では無いから」
確かに文明的に考えても、この世界では眼鏡をかけている人はいない。
「本当ですか!?」
突然声を荒げ、眼鏡かけた緑色の髪をした少年が二人の間に割って入ってきた。
「ちょと譲君っ」
望美の声で、はたっと姿勢を正す少年。
…躾ができている、感心してしまった。
「あ…すいません。俺は…」
「君は…有川譲君、でしょ?」
「っつ、なぜ…」
面識の無いはずのの口から譲の名が出た事に、譲のみならず隣に居る望美も目を丸くした。
はさらに続ける。
「実はね、有川将臣君からあなた達の事は聞いているの」
「将臣君からっ!?」
「兄さんからっ!?」
同時に声を上げて、顔を見合わせる望美と譲。
「さん、今兄はどこに…いや、ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「迷惑なんて、私がかけたと思う。…将臣君は訳あって京を離れているけれど、大丈夫。元気にやっていると思うよ?」
「兄さんなら…そうですね。少し安心しました」
律儀にに頭を下げる譲の横で、複雑な表情を浮かべながら望美が見つめていた。
その後、簡単に八葉と白龍、朔の紹介をしてもらい梶原邸へと移動することになった。
「は不思議な気を放っているね」
小走りに白龍がに近寄り話しかけてきた。
「とても暖かくて心地良くて…まるで神子みたい」
こちらを見上げながら話す姿は、とても龍とは思えない綺麗な顔をした幼い男の子。
(やっぱりかわいいなぁ)
緩んでしまう頬と抱き締めたくなる衝動を理性で抑える。
「ふふっありがとう。嬉しいな望美ちゃんみたいだなんて…」
「神子とは異なる力…は持っているよ?気が付いていないようだけど」
「白龍君、残念ながら私にはそんな力は…」
無い、と言いかけてふと思い出す。熊野でも修験者に同じような事を言われはしなかったか?
首を傾げていると、隣を歩く望美がそっと聞いてきた。
「さんは何時この世界に来たんですか?」
「冬だったから…一年半前くらいかな?」
「私、知らなかった…」
の答えに望美は目を瞬かせる。
「それはそうだよ?今初めて会ったからね」
「そう、ですね…」
「でも…何度も繰り返したのに…」
望美が下を向きながらポツリと呟いた言葉に、
(望美ちゃん、貴女は一体何度運命を上書きしたの…?)
と思ったが、あえて聞こえなかったフリをした。