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梶原邸で朝餉に集まったのは、、望美、朔、白龍、ヒノエ、景時、譲の七名。
九郎、弁慶は昨晩中に各々の屋敷へと戻って行き、リズ先生はいつの間にか居なくなっていた。
「譲君の作るお味噌汁って最高!」
そう言いながら望美は嬉しそうにずずー と味噌汁をすする。
「望美ちゃん、口に物をいっぱい入れて喋らないの」
隣に座るは年長者らしくたしなめるが、当の望美は嬉しそうしていた。
「はーい姉さん気を付けます」
「もう望美ったらしょうがないわね…」
口調は呆れつつも、朔の表情も柔らかで。
女性陣三人顔を見合わせると、あはははと笑いが漏れた。
「姫君達のじゃれ合いが見れるなんて、こういう朝餉もいいものだね」
「女の子が増えると家の中が華やかになっていいねぇ」
ヒノエの言葉に景時はうんうんと頷く。
「神子が楽しそうだと私も嬉しいよ」
「ほら白龍、口許に米粒付けて…」
譲はすっかり保父さんになって甲斐甲斐しく白龍の口許を拭ってやる。
「みんなで食べる朝餉っていいね」
ただが残念に思った事は…
(リズ先生の食事している姿を見たかったのに)
* * * *
「さん、少しいいですか?」
春の柔らかな太陽が頭上に昇る時刻、梶原邸を訪れた弁慶に声をかけられた。
「え、あっはい…」
優男の彼からは、笑顔を浮かべているはずなのに有無を言わせない無言の圧力を感じ…
には彼について行くしか選択肢は無かった。
屋敷から離れた庭の一角まで歩くと、弁慶がの方を振り返った。
「君とは一度ゆっくりと話してみたいと思いましてはね」
彼の薄栗色の髪が太陽の日に反射してキラキラ眩しくて、は目を細めた。
綺麗なのに、何故こんなに威圧感を感じるのだろうか?
「君は望美さんと同じように、此処とは異なる世界から来たと聞きましたが…しかし、随分と京に詳しいようですが?」
「私はこの世界に来て暫くの間、京で暮らしていましたから…」
「そうでしたね。白拍子の一家に世話になっていたと聞きましたが…貴族の邸にも呼ばれたのでしょうね?…六波羅にもね」
(成程…弁慶さんは…)
のらりくらりと本題をはぐらかしつつ、此方の様子を観察する弁慶にはハッキリと問う。
「…それで、弁慶さんは何を知りたいのですか?」
此方の様子を観察する弁慶にはハッキリと問う。
「…それで、弁慶さんは何を知りたいのですか?」
弁慶の目元がピクリと揺れた気がしたが、更には続ける。
「私を探ったとしても、源氏側に有力な情報は何も得られませんよ?」
そこまで言うと、真っ直ぐに弁慶を見つめていた視線を下にそらす。
「それに私には駒としての価値はありませんから…」
「…さん」
「…今度は普通に誘ってくださいね。それでは、失礼します」
弁慶に次の言葉を言わせないように、顔を上げてニッコリとにこやかな笑みをするとは足早にその場を後にした。
遠ざかるの後ろ姿を見送りながら弁慶は成程…と呟く。
成程、中々に賢く鋭い女性だ。それどころか…
「ふふ…彼女は相当手ごわい女性のようですね。ね、ヒノエ?」
後ろを振り返らずに言うと、ジャリ… 木陰から姿を現したのは苦虫をかみつぶしたような表情をしたヒノエだった。
「…には裏はないぜ?その辺りはとっくに調べはついている」
「そんな事はわかってますよ?ただ、可愛い甥を翻弄する彼女がどんな女性か知りたくてね」
食えない叔父の言葉にヒノエは溜め息を吐いた。
「…で、感想は?」
「中々手強いですが賢くて魅力的な女性ではありますね…君が気に入る訳だ」
「それを確かめるためにわざとを試したのか?相変わらずいい趣味をしてるな」
「おや?覗き見をする君に言われたくありませんが…」
からかうように笑顔を崩さず言う目の前の相手を軽く睨むと、声のトーンを落としてヒノエは言う。
「…手を出すなよ」
その声に牽制の響きが混じっている事に気付くが、弁慶はあえて軽く答える。
「ふふ…それは、どうでしょうかね?」
やはりこの叔父は油断ならない―…
ヒノエはぎりっと拳を握り締めた。
「はぁ…疲れた…」
足早に屋敷まで辿り着くとは濡れ縁に腰を下ろした。
先ほどは冷静に対応したつもりだったが、弁慶が放っていた圧力に内心は焦っていた。
さすが源氏の軍師殿といったところか…
(ゲームで想像していたとおり弁慶さんは黒いというか…怖い…)
の頭内の図式で、[弁慶=腹黒要注意人物]という位置付けが確定した瞬間だった。