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勝浦へやって来た翌日ー…気晴らしと消耗品の買い出しのため望美と朔は朝から市へ出掛けていた。
「一緒に行かないか」と言う二人の誘いをやんわりと断り、はというと…
「!!」
「最近連絡が無いから心配していたのよ」
「元気だった?」
事前連絡も無しに訪ねたというのに、久しぶりに会った加奈母娘は再開に涙を浮かべて喜んでくれた。
近況を伝え合い、京で流行っていることやたわいのない話に花を咲かせる。
久しぶりに肩肘張らず話せる彼女達との楽しい一時。
でも、伝えなければいけない。託された“彼”の想いを…
話が一段落ついたところで、深呼吸をしてようやく話を切り出した。
「お母さん、加奈ごめんね。奈々と二人きりで話したいの」
* * * *
「そう、清房様はそんな事を…」
「…ごめんね…」
生田の森で清房と会った時の話を聞いて、暫く黙り込んだ後に奈々がかすれた声で呟いた一言。
[加奈とお母さんがそれを察してくれて、今は室内に奈々と二人きりで居る]
外から吹き込む風が止んでしまい、汗で肌はベト付いているのにの喉はカラカラに渇いていた。
奈々に話して、今更になって彼を助けることが出来なくて申し訳無く感じて…気が付けば謝っていた。
不思議そうに顔を上げた彼女の顔を直視出来ずに瞳を伏せてしまう。
「何でが謝るの?」
「でも…」
何でと問われてもわからない。
ただ責めて欲しかった。
「見殺しにしたのか!?」って責めて、泣きついて罵倒してくれたらどんなに楽だろうか。
逃げているだけだ、…そんなことは十分わかっている。
それなのに、膝の上に置いた両手を握り締めるに彼女は穏やかな瞳でこう言うのだ。
「謝ることなど無いの。だって、は私の想いを伝えてくれた。それに私に清房様の言葉を届けてくれたでしょ」
すぅ…と奈々の頬に涙が一筋流れた。
「ありがとう…」
穏やかに、どうしてそんな事を言うのか。
礼を言われる意味が解らなかった。
俯き、小刻みに震えるの手に奈々の白くて小さな手が添えられる。
「だから、。自分を責めないで…」
「…っ、私の方こそ…ありがとう」
言葉と共に涙が零れ落ちた。
自分は相当疲弊していたのか、これでは幼子のようだな。と頭の冷静な部分で思う。
だが、一度溢れてしまった涙は堰を切ったように流れて出てなかなか止まってくれない。
「…」
奈々の方が年下なのに、あやすように抱きしめて泣き止むまでそっと髪を撫で続けてくれた。