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ザァァ―!
宿へ戻る途中、突然降り出した大雨から逃れようと民家の軒下に駆け込みは空を恨めしそうに睨む。
望美・朔と色違いで購入したせっかくの単衣もびょぬれになってしまった。
こんな事なら「泊まっていけば」と言う加奈の言葉に甘えておけば良かったか。と今更後悔しても仕方ないが、溜め息を吐いてしまう。
「さいあく…」
年甲斐も無く大泣きしてしまった事や夕立に降られてびしょ濡れになってしまった事、全てを込めて大きな溜め息を吐いた。
これで雷も鳴り出したら本当に最悪な一日だ。
雷は恐いわけではないが、一人ぼっちでいる時に落ちたら…と思うとこの場から一歩も動けない。
薄暗い雲が立ち込めた空に文句を言っても仕方がないが、八つ当たり的に文句の一つも言いたくなってしまう。
「夕立…なんだかゲームを思い出すなぁ」
ぼんやりと降り続く大粒の雨を見て思い浮かんだのは、遙か3のゲーム中の熊野での1コマ。
勝浦へやって来た望美が夕立に降られ、雨宿りのために駆け込んだ木の下で平知盛と出会う場面。
二人の会話はとても艶めいていて、ゲームをやっていた時刻は朝方だというのにドキドキしながら見ていたものだ。
もしも今がゲーム中の裏熊野ルートなら…きっと今頃二人は出会っているのだろうか。
この雨の中、あの木の下で……
そう事を思うと、何故か飲み過ぎて胃がもたれた時のようにムカムカする。
「…?」
驚いた声に反射的に顔を上げると、軒下に自分と同じように雨宿りをしている人物が居た。
「将臣君っ?」
何故ここに?そう言いかけて気付く。
そうだ、確か彼も勝浦に宿をとっていたんだ。
「人の声がすると思ったら…お前、何でここに?ずぶ濡れじゃねぇか」
「今、望美ちゃん達と一緒に熊野へ来ていて、別行動していてそれで…」
人差し指で雨が降りしきる正面の景色を指差す。
「雨宿り中」
「あぁ俺も一緒だ」
に負けないくらい将臣もぐっしょりと濡れてしまっていた。
癖の強い蒼髪が水気を帯びストレートになり、普段と違った印象をうけた。
だから将臣に気付け無かったのだ。多分…
「将臣君も人のこと言えないくらいずぶ濡れだよ?」
「はは、違いないな」
ニカッと豪快に笑う将臣のお陰で少しだけ肩の力が抜けた。
「でも良かったなぁー将臣君が来てくれて」
「そうか?」
「もしも一人でね、雷が鳴り出したら思うと心細かったの…」
ゴロゴロ…
「えぇっ!?うそっ」
急に鳴り出した雷。
いくらなんでもタイミングが良すぎて笑えない。
ピカッ
一瞬走った稲妻に思わずギュッと拳を握り、身構えると、
「ほら、手」
差し出される将臣の大きな手のひら。
あまりにも自然な動作で出されたため、直ぐには理解出来なかった。
きっと、幼なじみの望美や譲に対してもいつもこんな感じなのだろう。
「ありがとう…」
そっと彼の手を取ると、強く握ってくれた。
思った通り大きくてごつごつした逞しい手のひらに、安堵しつつも胸が高鳴ってしまう。
(ど、どうしよう…何だか緊張しちゃう)
急に身体を硬くしたのは雷のせいだと思ってくれたのか、将臣は反対側の手をの頭に置く。
それは逆効果だとツッコム事も出来ずに、は暫くの間雨音と通り過ぎていく雷の音を聞いていた。
「雷、行っちまったみたいだな」
「うん」
そう言うが、二人の手は繋がったまま。何となく離すタイミングが解らないのだ。
お互い顔を見合わすとなんだか笑いが込み上げてきた。
「ふふっ将臣君…少しだけ肩を借りてもいい?」
「…何かあったのか?」
「うん…だから甘えてさせて…」
将臣はヤレヤレと肩を竦めると、の後頭部に手を当てて引き寄せる。
「しょうがねーな」
「えへへっ」
ペロリと舌を少し出す。
将臣の肩に頭を傾けて寄りかからせると、ゆっくり瞼を閉じた。