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怨霊を無事封印した一行は勝浦への帰路を急いだが、舞イベントやら怨霊退治やらでさすがに日も暮れてきたため、街道沿いの宿に泊まることになった。
勝浦に残っている皆、とくにヒノエが心配しているだろうが…この世界では連絡手段が無いため仕方がない。
もしも道中で水軍衆や烏に会えたなら、ヒノエへの伝言を頼もうかと思ったがそれらしき人物には出会うことはなかった。
「う〜ん、疲れたね〜」
板の間に足を投げ出して伸びをする。人の手が加わっていたとはいえ、コンクリートで舗装されていない土の道を長時間歩いたせいで脚はパンパンに浮腫んでいた。
「さん巻き込んじゃってごめんね」
申し訳無さそうにうなだれる望美には笑いかける。
「何で望美ちゃんが謝るの?」
「うん…でも今夜泊まることになっちゃったし」
「巻き込まれちゃったのは仕方無い事だし…それにいくら宿に泊まるといえども、男どもの中に女の子一人放り込む事にならなくてよかったと思うよ」
将臣とは気心が知れている仲とはいえ、年頃の女の子を男二人に預けるなんて心配でならない。
それに、ゲームの中でもこんな展開は無かったから少しだけ何か起きるのでは無いかと期待してしまう。
勝浦の宿程豪奢では無いが、掃除が行き届いた室内はとても居心地がいい。
は室内に吹き込む少しだけ涼しくなった風に、目を細めた。
* * * * *
「にゃははは〜美味しぃにょ〜」
盃いっぱいに注がれた酒を、一気に飲み干す望美の様子を見ては慌てた。
夕食を終え、部屋に酒とつまみを持ち込んで軽く飲んでいたのだが…
上機嫌な望美の手から酒壷を取り上げる。
「あー!!」
「、望美が可哀想じゃねーか」
望美が持つ空の盃に、酒を注ごうとする将臣を手で制して睨み付ける。
「将臣君、これ以上は駄目。望美ちゃんは未成年者だし」
「まぁまぁ、こっちにはそんな法律は無いんだから固いこと言うなって」
そう言いながら将臣は肩を竦めた。
確かにこの世界では法律は無いし、成人とする年齢も違うがこれ以上飲ませられない。
「平気だよ、私お酒強いもん」
「だーめ!」
「さんのケチー!」
頬を膨らまして文句を言う望美から酒壷を遠ざける。
「クッ、乱れた神子殿を肴に飲む酒もまた一興か…」
「知盛殿、発言が怪しすぎる…」
怪しい笑いをする知盛を見て、自分も一緒に居て良かったと改めては思っていた。
「ねぇ…さんって好きな人いるの?」
突然望美から振られた話題に、口に含んだばかりの酒を吹き出しそうになった。
「お泊まりの夜っていったら、ぶっちゃけ大会ぃィエイッ!」
軽く噎せながら身体を引くに望美は詰め寄る。
「な、何を急にっ」
「だってさぁ〜さんの事密かに狙ってる人は多いと思うよ〜?
特に、ヒノエ君は本気だと思うんだけど〜いつも素っ気なさすぎだもんっ可哀想だよ〜」
そう言いながら望美はオヨヨと両手で顔を覆い、泣き真似をする。
と、突然「あっ!」っと大声を出した。
「もしかして元の世界に恋人が居たりして!どうなの!?」
目を輝かせ詰め寄る望美と、将臣と知盛二人の答えを促す視線を感じ、しどろもどろになりながら答えた。
「ええーっと?まぁ、居るって言うか……居たんだけどね」
色々な事がありすぎて、そんな事などすっかり忘れていた。
あんなに腹が立ったのに泣いたのに。そういえばこの世界に来るきっかけは失恋だっけ。
それなのに、彼の事を思い出すとチクリと胸が痛んだ。
望美が口を開く前に今度はが問う。
「で、そういう望美ちゃんこそどうなの?」
「えっ!?えへへ〜内緒〜」
にこにこ笑う望美の頬や首筋は真っ赤に染まっていた。