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期末試験も終わり、部活がない日のため今日は早めに帰宅できる。
次々に帰り支度を始める教師達に混じって、珍しく早い時間に帰り支度を始めたに向かい合わせに席を並べる女性教師が声をかけた。


先生いいわね〜この後彼氏とデート?」

「そんな相手じゃありませんよ」

「あらそう?最近先生綺麗になったから、彼氏ができたんじゃないかって生徒達が噂しているわよ?」

“噂大好き独身教諭”である彼女にここで間違った事を言おうものなら、確実に職員内で噂が広まる。

「もー田中先生までそんなこと言わないでください。ただ最近、眼鏡をかけて無いだけですよ?」

「えーでもさぁ…」
「では田中先生お先に失礼します」

さらに何か言おうとする女性教師から逃げるように、は足早に職員室から立ち去った。
これ以上に付き合っていたら約束に間に合わなくなる。





早歩きでバスの停留所に着くと、時刻表を確認してからバックから携帯を取り出してメールを打つ。

【ごめんなさい。今、学校を出たので待ち合わせに10分程遅れてしまいそうです。寒いからどこか店の中に入っていてください】

送信ボタンを押し、1分と経たないうちにコートのポケットにしまった携帯のバイブレータとランプがメールの着信を知らせる。


【お疲れ様。心配しないで、ゆっくり来てくれていいから】


相手はきっともう待ち合わせ場所に着ているのだろう。
待ち合わせの相手である男性とは、親友と元彼の結婚式の二次会で知り合った。
その時は何となしに連絡先を交換したのだが、翌日から食事の誘いのメールをくれる彼に根負けして何度か食事をしていた。
紳士的で優しくて、服装は今時だし背は高くて顔立ちもよく、とても格好いい人だと思う。
友人達は彼を薦めるけれど…は何故かしっくりこなかった。
それは失礼な表現だが、ボタンをかけ間違えたシャツを着ているような微妙な違和感というか。



さん」

待ち合わせ場所に来たに向けられた彼の屈託のない笑顔を見て、何故か胸が苦しくなった。










* * * *









「最近、無理してない?」


ぼんやりとソファーに膝を抱えて座っていると、月子ママが覗き込むように聞いてきた。
彼女には全てお見通しなのだろう。それでもは笑顔を作る。


「大丈夫だよ。私は元気いっぱいだから」

「それが無理をしているというのに。全く強情なんだから…」

月子ママは呆れたように溜息を吐いた。












「あのさ、俺達付き合わないか」

「え、私…」

「君の事、好きなんだ。だから…」

彼の自分への態度から、いつか言われるだろうと思っていたが…
真剣な眼差しで言われてしまうと、何と答えるべきか迷ってしまう。
きっと彼は自分の事を大事にしてくれる。
平穏な日常を過ごしたいのなら頷くべきだ。…それなのに何故、迷いが生じるの?

戸惑うに近付くと、彼は駄目押しに「好きだ」と囁きの唇に自分の唇を重ねた。




− 愛してる −



一瞬、脳裏に響いた声に目を見開く。
…ああ、違う、この人じゃない。
この人は私をおいて逝ってしまった、あの酷い彼じゃない。


気がつけば、抱きしめようと背中に回された腕を振り払って彼の腕から逃れていた。
の予想外の行動に、声もあげずに驚いた表情の彼に軽く頭を下げる。


「ご、ごめんなさいっ!」

そう言うと、はこの場から駆けだしていた。





彼に失礼なことをしてしまった。
何て言って謝ろうか。
それに、さっきはどうしてあんな事をしてしまったんだろう。


ぐるぐると考えを巡らすが答えるが出ない。
ただ、触れられるのが…キスされた事が嫌だった。




「全くあんたは自分の気持ちに不器用なんだから。後悔して泣いているかと思えば次は強がって。今度は何の涙?」

逃げ込んで来たを月子ママは抱き締めた。こうなる事をわかっていたかのように苦笑しながら。


「だめなの…どうしても私、忘れられないの」

口に出してしまえば次から次へと想いが溢れ出てくる。

「で、あんたはこれからどうしたいの?」


(そうだ、私はずっと悔やんでいたんだ…苦しかったんだ)


「もう心は決まっているのでしょう?」

「私…」


(私の望む事は、それは、もう一度…)


「もう一度あの世界に戻りたい…あの人に会いたい。そして彼を、彼等を助けたい!」







ぱあぁぁぁ―…








「えっ!?」

言い放った瞬間、の全身は白い光に包まれる。
光は徐々に強さを増し、同時に襲ってきた目眩に目を開けていられなくなりは瞼を閉じた。


「いってらっしゃい。今度こそ後悔しないように生きて…」

月子ママの声が徐々に遠ざかっていくのを感じ…











* * * *










もし…



もし、大丈夫ですか?



(えっ?)



がばっ



「きゃあっ!?」



がんっ



「いたた〜…」

「…っくぅ〜」

目眩と強烈な光が収まり、勢いよく上体を起こしたを覗きこんでいた女性の頭が勢いよくぶつかった。

「い…たたたた」

半泣きで頭を抱えながらは同じようにうずくまっている女性に声をかける。
同い年くらいの茶髪で薄緑色の着物を着た女の人。足は裸足に草履を履いて…

「って、あれ?」


(このシチュエーションは…!?)

未だに痛む頭を押さえつつ、まじまじと女性を見て嬉しさと懐かしさのあまり緩む頬。


「加奈っ!?」

「えっ…?あなたはだれ?」


女性、加奈は何度か目を瞬かせた。


「私の事、わからないの?」

軽くショックを受けながらも、辺りを見渡して現在の状況を理解する。
吹き抜ける冷たい風。石が転がる広い河原。


「ここは…冬の鴨川…戻って来たんだ」


そう此処は、にとっての始まりの場所。
二度、やり直す為に戻ってきたのだ―…

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