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どうして…?今それを考えても答えは出ない。
一体どんな力が働いたのかわからないが、再びこの世界へと私は戻ってきた。
これはチャンス。

前回は偶然…意図しないトリップだったが、今回は違う。
自分の意志で、望んで此処へ来たのだ。

そう…今度こそ後悔しないために。








「貴女、変わった格好をしているけど…どうして此処に倒れていたの?」

大きめなくりっとした目を好奇心からさらに丸くして、加奈は前回出会った時と同じ質問をする。

今のの格好はトリップ前と同じ、グレーのスーツ姿。きちんと靴を履いている点では前回よりマシだったが、変わった格好をしている事に変わり無い。
時を越えて二度この時空に辿り着いたのだから、当たり前だが彼女はの事を知らない。
望美も初めて時空跳躍をした時は戸惑ったのだろうか?ゲームの中では当然のように繰り返した時空跳躍。
同じ立場に立って、望美の気持ちが少しだけ分かった気がした。



(そういえば…前に跳ばされた時は、何が何だか状況もわからずに、ただ戸惑っていたなぁ)

わけも分からずに加奈と話していた事を思い出すと、懐かしさに思わずふっと頬が緩む。
急に笑顔になったに、加奈は不思議そうな顔をする。


「ええっとー私は旅をしている者です。気分転換に河原を歩いていたら、貧血を起こしてしまったらしくて気が付いたら…倒れていたみたい」

咄嗟に出た誤魔化しの言葉に、加奈はの事を旅芸人か遊女だと思ったのだろうか。
驚いた表情になると、彼女はの手を心配そうに握る。
女の身で何か理由があって、一人旅をしているとでも思ってくれたのだろうか。
そういえば白拍子と遊女は起源は同じ巫女だったとも言われていたっけ。



「一人で旅を?あ…もし、行く当てがないのなら私の家に来ません?女子の身ではいくら京といえども何かと危ないですし…」

彼女の言葉に、一瞬、京や熊野での加奈一家と過ごした日々が脳裏を過ぎった。
…戻る事ができるならもう一度彼女達と過ごしたい。
一家と過ごした時間は、自分に本当の母親と姉妹が出来たように楽しかったから。


でも…と、は頷きたくなるのをぐっと堪える。

また繰り返させるわけにはいかない。
だってこの先の運命を知ってしまったから。
自分の気持ちに気づいてしまったから…今回は彼女の好意に甘えるわけにはいかない。




「…ありがとうございます。でも、これから京で訪ねなきゃならない所があるの。貴女の優しいお気持ちだけいただいておきます」

無理矢理笑顔をつくって言うと、加奈は「そうなの?」と首を傾げた。



「あの…よければ名前を、名前を教えていただけませんか?」

「え?あ、私は加奈よ」

「私はと言います。加奈さん…またどこかで出会えたら一緒にお団子でも食べましょう」

加奈の名を聞く事も名乗るつもりはなかったが、最後の最後で聞いてしまった。
一緒に過ごせないのなら、せめて少しでも話したかった。
ただのエゴかもしれないが、「知り合った」という事実だけでも残したかったのかもしれない。



「ええ。貴女もお元気でね」



河原から上がり、簡単な挨拶を交わして加奈と別れた。

きっともう、加奈一家とは運命は交わらない。
少し寂しく思ったが…加奈は平家と関わる事は無いだろうし、奈々はきっと清房とは出会わない。
彼女が傷ついて泣くことは無いだろう。







「どうか、加奈…奈々…お母さん幸せでいてね」



一度だけ振り返り、遠ざかる加奈の背にぽつり呟いた。

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