大学生になりました

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ひらひら…ひらひら…



桜の花びらが舞う…



咲き誇る桜の花は、まるで…過ぎ去る春を惜しんでいるかのように散りゆく−…







あの日、あなたと出会ったあの日から


私はひとり


何度桜が散るのを見たのでしょうか。







“一緒に桜を見に行こうね”


“ああ…”






それは叶わなかった約束。



それでも、私は…


手の届かない場所に遠くに居る、あなたに逢いたいのでしょうか。






















−都内某有名女子大学−

窓を見上げれば雲一つ無い青空。
眠気を誘うくらい暖かい陽射しが降り注ぎ、風に飛ばされた桜の花びらが窓ガラスに貼り付く。



「春だなぁ…」

初老の教授が熱弁を振るう眠たくなる授業では、春の暖かな陽気にうたた寝をする学生もちらほら。
外を眺めていたは、ずれた眼鏡を直しながら目を細めた。





4月の大学では、所々で春らしいパステルカラーの流行りの服を着た女子学生達が、まだ初々しい新入生にサークル勧誘のビラを配る姿が見られ…
今やこの大学の春の名物となっていた校門付近での他大学の男子学生によるナンパもとい、合コン参加メンバー募集の呼び掛けという、4月のキャンパスではお馴染みの光景が繰り広げられていた。




騒がしい外とは異なり、学生の姿がほとんど無い学生食堂では混雑した昼食の時間は過ぎ、学食の販売はすでに終わっていたがお喋りに花を咲かす女子学生達が数人残っていた。




「えぇ〜!? 、またごめんなさいしちゃったの〜?」


食堂のテーブルを囲みながらおしゃべりをしている3人の女子学生の中でも、一番背が高く髪を茶髪に染めた巻き髪の女性は一際高い声を上げた。

「確かにアンタに紹介したのは彼氏と同じ相撲部の人だから、ちょっとポッチャリ系だけどさー紹介した男、3人目も駄目となると理想高すぎなんじゃないの?」

深いVネックから零れ落ちそうなくらいたわわな胸を揺らすと、キッと向かいの椅子に座るを睨む。
彼女の迫力には頬をひきつらせながら コクン と頷いた。


「う〜ん確かにふくよかで温厚そうな…いい人だと思うけど、そういう対象に見れなくて…」

シドロモドロなの答えに嬉しそうにしているのは、の横に座る黒いレースをふんだんに縫い付けたゴスロリワンピースを纏った背の低い童顔の女性。頭にちょこんと乗せている王冠型カチューシャがよく似合っている。


「んっふふっ、今回の賭けはアタシの勝ちね!」

ゴスロリ系、フェロモン系、そして眼鏡っ子の。全くもってジャンルの違う凸凹な仲良し3人組である。


「くっそ〜!今回の男は包容力抜群でイケると思ったのにぃ!」

「包容力っていうかさ、アタシにとったらただの体格のいいヒトにしか見えないんだけど。ま、賭は賭だからきっちり払ってよね千円」

片手を突き出して催促するゴスロリ娘に、フェロモン娘は渋々といった仕草で、ブランドバックからこれまた有名ブランドの財布を出すと千円札を取り出した。
二人の勝手なやり取りには唇を尖らせる。

「ちょっと〜人を賭けの対象にしないでよ!」

「だって、が全然彼氏作らないんだもの」

「そうそう、最近アタシら彼氏とマンネリ気味で刺激が欲しいの。このくらい楽しませてよ〜」

「「ねー」」

見事にハモる声。2対1ではには勝ち目は無い。


「もぉ〜」

最後の抵抗に頬を膨らまして、拗ねてみたが酒でも辛口が好きという二人効果は無かった…
フェロモン娘が、たわわな胸を強調するように両腕で挟むように突き出しながら再びテーブルに身を乗り出す。

「アタシらもう3年だし今年の後半からは就職活動しなきゃなんないしぃ、遊んどくなら今しかないわけ。!大学生活ずーっと彼氏居ないのも寂しすぎだって!!」

の両肩を掴んでぐわんぐわん揺さぶりながら叫ぶ彼女に、何事かと食堂中の視線が集まる。

「ちょっ、声がでかいっ!そりゃ彼氏は欲しいよ?ただ…何か「違う」って思っちゃうの」

眉尻を下げるの様子に、友人達はやっぱりと顔を見合わせた。


「やっぱ思った通りには忘れられない男がいるんだ!」

「ちょっと、だから彼氏をつくらないの?っか誰よ?どんな男!?教えてよ〜!!」

「え〜?だから何でそうなるの?!」

鼻息も荒く、首を絞めるくらいの勢いで詰め寄る二人を回避するために、勢いよくは椅子から立ち上がった。



しゃらん…


「あっ」

勢いよく顔を上げたため、横に纏めた髪に付けていた桜の髪飾りが揺れて小さな音を鳴らす。
髪から外れそうになった髪飾りを慌てて片手で押さえた。


「…そういえば、去年も一昨年も春にソレをよく付けていたよね。お気に入りなの?」

ゴスロリ娘の問いにはゆっくりと瞳を伏せた。








「えへへっありがとう知盛さん」

「やはり、よく似合うな」

「えっ」

「お前には大輪の華は似合わない。小さな、しかし誰もが惹き付けられる、己の存在を主張している桜が一番似合うと思ったからな」

「……」

「ククッどうした?顔が赤いぞ」





くしゃりと頭を撫でる大きな手のひら。
耳に心地良く残る声はしっかりと覚えているのに…意地悪で優しい微笑み、忘れられないはずなのに、今では淡い霞がかかって見えた。







「うん、大切な…宝物なんだ」


(そう、これはあの人との大切な思い出の証…)

目を伏せながら、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。



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