ピピピピピ……
目覚まし時計のアラーム音に起こされたの視界に先ず入ってきたのは…握り締めていたためしわくちゃになったシーツ。
「あれ…?」
呟いた声は掠れたもので、喉もカラカラに渇いていて声を出すと同時に咳き込んでしまった。
重い体を反転させて、ぼんやりと天井を眺めながら昨夜の出来事を思い返してみる。
友人達との飲み会、壊れてしまった髪飾り。
そして、懐かしい彼との再会。
「…夢だったのかな?ううん、そんな事…無いよね」
(だって、こんなにもはっきりと彼の声を体温を覚えているもの)
【今日の講義出れそう?大講義室2の一番後ろにいるからね】
大学に行く支度をしている途中に届いた友人からメール。
しばらく携帯電話を見ていない事に気がつき、確認すると友人からの着信とメールが数件届いていた。
昨夜は気が動転していたとはいえ、彼女たちには随分と心配をかけてしまっただろう。
申し訳ないという気持ちと、いい友達をもったなと、ほんの少し嬉しかった。
待ち合わせの教室へ行くと、顔を曇らせた友人二人が神妙な顔付でを待っていた。
「昨日は…」
「何も言わないで帰ってごめんね」
彼女達の言葉を遮る様に両手を合わせて、ごめんなさいのポーズをする。
昨夜はどんな理由が有ろうとも、彼女達に何も告げずに帰ってしまったのだ。大人気なかった、と謝らなければならないのはこちらの方。
「えっと、大丈夫なの?」
友人が整えられたシャープな眉を歪めながら問う。もう一人の友人も心配そうにを見詰める。
「うん、もう大丈夫だよ。元気元気!」
腕を上げて握りこぶしを作る仕草をする、何時もと変わらないの様子に、二人はようやく表情を緩めて「良かった〜」と安堵の息をついた。
「もー絶対に怒っていると思ったの」
「やだな二人とも、私がそんなに心が狭い人間だと思ってたの〜?」
(本当に不思議)
昨夜、髪飾りが壊れてしまったのは悲しかったのに…あんなにささくれ立っていた気持ちが、自分でも不思議な位に晴々としていたのだ。
* * * *
夜空に浮かぶ三日月がゆらりと陽炎のようにゆらゆらと揺らぐ。
こんな時はあの娘がやって来るだろう。
手酌で酒を注いだ杯に口を付けながら、知盛は傍らに置かれた盆に視線を移した。
「あー!またお酒を飲んでいるんですか?」
「…そんなのは俺の勝手だろう」
断りもなく隣に腰を下ろすに、知盛はクツクツと笑いながら唐菓子を差し出す。
「えへへっ美味しそう」
…あの月夜の再会以来、は度々知盛の元を訪れてるようになっていた。
どのタイミングで跳ばされるのか法則性はよくわからないが、それは自宅で眠っている時であったり、講義を受けていて欠伸をした時や、ふとした瞬間だった。
不意にやって来るを知盛は菓子を用意して迎える。何とも不思議な関係。
(でもこれって、まるで秘密の逢い引きをしているみたい)
そう思うと、必要以上に知盛を意識してしまい緊張してしまう。
しかし、
「クッ、お前は本当に幸せそうに食べるな」
「だって甘いもの大好きなんですもん」
知盛に逢えばそんな緊張は吹き飛んでいく。
彼が居る場所は何処なのか、時勢がどうなっているのかそんな事は考え無いで、ただ逢えるのが嬉しくて楽しくて、知盛に逢えた後は四六時中笑顔になっていた。